初めての力比べ4

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初めての力比べ4

 男のプライドをかけた戦いが始まった。 「覚悟ぉ!」  勢いよく地面を蹴って一瞬で距離を詰めてくる。  2本のナイフを巧みに使い絶え間なく繰り出される攻撃は一撃一撃は軽い反面手数が多く捌くのにいっぱいいっぱいになって防戦一方になる。  前から横から、一瞬でも油断すると後ろから、そして上下左右からと軽いとはいえ防ぐのも簡単ではない。  息もつかせない鬼気迫る勢いだが激しければ激しいほど長続きもしないものだ。  隙は必ずできる。息をつけないのは攻撃側も同じなのだ。  そこに備えて覚悟も出来ている。 「チマチマと鬱陶しいんだよ!」  相手に攻撃が通らない焦りが相手に現れる。相手の呼吸が乱れてそれに攻撃のほんのわずかな隙が重なる。  大きな隙とは言い難いけれど思い切って攻撃に移る。  まだ未熟なリュードにはウォーケックのような攻防一体の動きはまだ難しく、相手の短剣の軌道をそらすようにしながら無理矢理突きを繰り出す。  逸らしきれなかった短剣が脇腹をかすめて痛みが走るが覚悟していたため動きに影響はない。  想像してなかった反撃に一瞬遅れて体をねじって躱そうとしてもしきれず右肩に突きがしっかりと当たって人狼の青年は後ろにぶっ飛ぶ。  地面に左手をついて一回転してその衝撃を殺すも顔は明らかに痛みに歪んでいる。  上がった赤札は2つ。  人狼族の少年が戦闘継続の意思を見せたので勝ちきれなかった。  現実の戦闘でも大ダメージだろうがナイフを二刀流で運用している人狼族の少年は左手が無事ならまだ戦える。  これで決まってくれていれば楽だったがそう甘くもない。  なんて事はない。  そうアピールしようとしてなのか構えようとしても右手はどう見ても左手ほど上がっていない。  この好機を逃すはずもなく今度はリュードから攻め込んでいき慌てて大振りにならないように鋭く細かく攻撃するも、さすがというべきか左手のナイフを使って上手く回避していく。  右手がまた使えるようになる前に勝負を決めたい。  速さと手数が武器だった相手から手数が無くなった。  速さも最初の体力の消耗と肩の痛みで損なわれている。 「ぐっ……」  人狼族の少年は必死にリュードの攻撃をかわす。  いくら年下の攻撃とはいえナイフ1本では両手持ちの剣を防御するのは難しい。  速さ活かして防御ではなく回避していく。  このままでは勝負もつかない。  鋭く素早い攻撃で気を繰り返して相手の体力を徐々に削っているものの、決め手に欠ける。  時間をかければ再び右手が動かせるようになるかもしれない。  そこで思い切って相手の懐に飛び込んでみる。  疲労が蓄積されてきたのかとっさの動きに反応が鈍くなっている相手のさらに内側に踏み込む。  どちらかといえばナイフの距離。  回避行動をとるか攻撃するか、迷いが獣人族の少年に生じた。  リュードの行動は相手がどう動こうが決まっていた。  左から右に横薙ぎに剣を振る。  人狼族の少年から見ると動かせない右手側から攻撃が来る。  すでに速さに乗り始めた攻撃は近すぎてあまり力は乗らないけど大きく体を回転させて威力を出す。  もうこうなれば回避も難しい。  なんとか上げた右手に持ったナイフと剣が当たり金属同士がぶつかる高い音が鳴り響く。  力の入らない右手、しかも体勢もほとんど直立で踏ん張りも利いていないためにほとんど力を相殺することもできずにナイフと人狼族の青年の体が地面を2転3転と転がる。 「勝者シューナリュード!」  まだ起き上がるならトドメを、と思った時には審判はすでに4本の赤い札を上げていた。  人狼族の青年は立ち上がることはなく気絶していた。  担架に乗せられて医療班の元に運ばれていき、リュードも控え場所に戻った。  ドッと疲労が襲ってきて椅子に座ると勝った喜びが湧き上がり、小さくガッツポーズをしてしまった。  次は決勝となるのだが、すぐに連戦というわけではない。  ここで大人女性部門のトーナメントのくじ引きが行われ、上手に休憩の時間を確保してくれる。  大人女性部門にはメーリエッヒやルーミオラも出る。  そして子供部門チャンピオンであるテユノも大人部門への特別参加が認められる。  リュードは水にレモンのような酸味のある果物の果汁を加えたサッパリとしたドリンクをチビチビ飲みながらトーナメントのくじ引きの様子を見ている。  木の棒に先に番号が書いてあり、年配からくじを引いていく。  相手を見て喜ぶ者や絶望する者、挑戦してやると意気込む者もいる。  "怒れる蒼竜姫"なんて昔呼ばれていたとか呼ばれていないとかいうメーリエッヒの対戦相手はもうすでに死んだような顔をしている。  およそ40人ほどの女性たちが一喜一憂するくじ引き大会が終わる。  トーナメント表に名前が書きこまれて掲示される。  すでに優勝予想が始まっていてああでもないこうでもないとみんな予想を肴に酒を飲む。  すなわち休憩が終わって決勝が始まる。  実際疲労はまだ残っているし脇腹はちょっと痛む。  勝者は基本治療してもらえないからしょうがないけどもうちょっと休みたいというのが本音だ。  あんまり間隔を空けすぎて体を冷やしてしまうのもよくはないだろうけど。 「リュード君」  入場の時を待って出入り口前にいると決勝の相手、フテノ・ドジャウリに声をかけられた。  そう、彼は村長の息子、テユノの兄である。  気の良さそうな青年に見えるフテノは父親と同じ燃えるような真っ赤な髪を揺らして歩いてきてリュードと並ぶ。 「まさかディーアを倒しちゃうとはね……不思議と君ならって思ったけど」  これから戦うのに日常の一幕でもあるかのようにフテノは話をする。  フテノはテユノと違ってリュードに対するあたりは強くなく普段から物腰が柔らかい。  父親の血を継いでいるのか同年代の子よりもがっしりとした体つきで身長も高い。 「妹からもよく話を聞くし村でも話題だからね。さっきの戦いでまだ疲れてるとは思うけど……僕も手加減はしないから」 「もちろんです」  フテノの目を見返すと笑顔を浮かべているけれど静かに、だけど熱く闘志が燃えているのが分かった。  出入り口が開いて、中に入るよう言われる。  大きな声援に迎えられてリュードとフテノは真ん中付近で一定の距離を開けて向かい合い剣を構える。 「始め!」  試合開始の号令がかかっても2人は動かない。  集中力が高まっていき、やがて周りの音が遠ざかっていき雑音が何も聞こえなくなる。  先に動いたのはフテノ。  スッと距離を詰めてきてまっすぐ下ろされた剣をあえてそれを真正面から受け止め同じように剣を返す。  足を止めまさしく互いに力を比べるかのように何回も剣と剣をうちあわせるようなしのぎを削る攻防。  鍔迫り合いになって押し合いになる。  やはり子供にとって年齢の差は大きく、たった3歳の差であるけれどほとんど大人に近いフテノの方が力が強く徐々に押されていく。 「フッ!」  押し切ってリュードを払うように振った剣を飛び退いてかわす。 「行くぞ!」  ここまでは挨拶のようなもので休む間もなくフテノの更なる攻撃が始まる。  力の差があることは分かりきっているので真っ向から受けるような真似はしないが人狼の青年とは違い一撃一撃が重いのに素早くて受け流すように防ぐだけで腕がビリビリと痺れる。  先ほどのように一回相打ちでなんてことをすればやられるのはこちらになるので無茶はできない。  1分2分、あるいは数分、もっと長かったかもしれない。  もしかしたらもっと短かったかもしれない。  重たい攻撃を防ぐのに神経はすり減り短い時間にもかかわらず滝のような汗が流れ、服が張り付くようになって気持ちが悪い。
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