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異世界へ2
「その世界はイシュヴァレンシノというんじゃが、そのイシュヴァレンシノは今大いなる危機に瀕しているのじゃ」
イシュヴァレンシノという星なのか世界全体なのかは未曽有の危機にあるらしい。
というのもイシュヴァレンシノは魔法が存在する世界である。
世界は魔力に満ちていて魔法によって生活し魔力は同時に生命のエネルギーでもある。
しかし今イシュヴァレンシノの世界の魔力は枯渇寸前であった。
イシュヴァレンシノの世界でおよそ400年前の話。魔王率いる魔人族とこちらでいう人間にあたる真人族との間で大きな戦争が起きた。
戦争は20年にも及び、激しい戦いの末に人間側が一応の勝利を収めた。
魔力は本来循環する。食物連鎖のように魔法によって放たれた魔力は物や植物に吸収されて、それを人や魔物が摂取する。
よほどのことがない限りグルグルと魔力は循環して一定に保たれている。
そのよほどのこと、戦争が起きた。
当然魔法が中心の世界なので戦いにおいても魔法、魔力が用いられた。
吸収されるよりも早く魔力が消費され、魔力を吸収するはずの生き物も多くが命を落とし大地も荒れ果てた。
歴史上類も見ないほど世界の魔力は非常に濃くなり戦争は末期を迎えた。
そのタイミングでイシュヴァレンシノは他の世界に非常に近づいてしまった。
さらに運の悪いことに近づいた世界は元々の魔力の薄さに加えて安定していて魔導工学文化の発達した世界であって、魔力は生物や生み出された装置といったものに溜め込まれて満ちている魔力が非常に希薄な世界だった。
同一の世界では魔力は濃いところから薄いところに流れる性質がある。
基本的に世界を越えることはないのだが戦争がもたらした魔力の濃さと何百年に一度あるかないかレベルで世界が近づいたことで魔力が他の世界に流れ出した。
堤防が決壊したかのように一度流れ出した魔力は止まらない。
魔力はみるみる流れていき、訳も分からず魔力が増えた他の世界は流れてきた魔力をここぞとばかりに貯めこんだ。
還元されるはずの魔力がなくなってしまった。
戦争が終わり世界が平和になったのにイシュヴァレンシノの魔力は大きく減衰してしまった。
平和になって人が増え、大地が再生して余計に魔力が足りなくなった。
魔力が減るということは生命のエネルギーも減るということである。
寿命が短くなり病気などに対する抵抗力が下がる。
魔力は魔物の方が持っていることが多いので魔物よりも人の方が弱体化が早い。
世界が緩やかに衰えていき、最悪の場合滅亡してしまう。
イシュヴァレンシノの人にとっては非常に重要な話をサラリと話して神様は饅頭を食べた。
異世界の事情は分かった。
しかしそこに自分がどう関わるのか分からない。
「それで俺はいったいどうしたら……」
要するに異世界であるイシュヴァレンシノに魔力が足りないという内容なのだがそんな話をされたところで異世界を救うすべなんてない。
当然魔力なんて持っていないし、仮に魔力を持っていたとして世界を救えるほどの魔力がどれほどのものなのか想像もつかない。
「お主の言いたいことは分かっておる。
心配せんでもよい。お主の役割は……そうじゃのう、トラックのようなものじゃ」
「トラック、ですか?」
一体どういう例えなのか。轢かれたことを思い出すからあまり嬉しい表現に聞こえない。
「ふむ、表現が難しくてな。ホース……もまた違うし、道になっていもらうというのもまた……。
つまり何が言いたいかというとお主を介して向こうの世界に魔力を送りたいのじゃ」
「俺がですか?」
「そうじゃ。お主が魔力を持っていくというより向こうの世界に魔力を送るための道をお主を利用して作りたいのじゃ
実はお主は渡り人であるからの」
今度は渡り人。知らない言葉が飛び出してくる。
「渡り人というのは何ですか?」
「おお、すまんすまん。納得してひきうけてもらいたいからのう、なんでも答えよう。
渡り人というのはな……」
渡り人はザックリいえば異世界人である。
これだけ聞くと誤解もあるけれど間違った表現ではない。
渡り人もまた別の世界が関わっている。
世界が近づくという現象そのものはどこかしらで起きているぐらい珍しいことでもなく、しばしば起こりうる。
魔力が流出してしまうことはほとんど起きない稀なことであるのだが、気づかなくても影響があることもある。
その中でもたまにあることに生き物の魂が世界を渡ってしまうことがある。
正確には渡りかける魂がほとんどで渡り切れる魂少ない。
たまに起きる魂が世界を渡るときに耐えきることができる魂がごくごく稀にいる。
偶然にも渡りきることができた魂を渡り魂といい、今回は人であったので渡り人という。
では渡り人が何なのか。
世界を渡るというのは本当に困難で希少なことであってほとんどが渡りきれずに飲まれて消滅してしまう。
渡り人の魂はそれを超えて渡りきっただけでなく、さらに渡る際に触れるエネルギーの奔流で魂が強く強靭なものになる。
魂の強さは魔力に関する資質の高さに直結する。
渡った世界、生まれた世界が違ったなら大魔法使いになっていたかもしれない。
しかし何の因果か生まれた世界に魔法はなかったので渡り人としての恩恵は何も感じることなく生活してきた。
超能力とか不思議な力も一切ないのである。残念。
何はともあれ一度でも世界を渡ったことのある渡り人の魂はもう一度世界を渡れるほどに頑丈。
なのでイシュヴァレンシノに魂を無理やり送って世界を一時的に繋げようというのである。
「さらにもう一つ。
魔法がない世界でも魔力がないわけではないのじゃ」
驚きの事実。
地球に魔法はない。しかし魔力がないのとは違う。
むしろ地球のある世界は魔力に満ち溢れていると神様は言った。
たまたま科学が発展した。それぐらいの違いによって魔法という文化は花開くことなく消えて行ってしまったのである。
有り余るほどの魔力があり使っていないのなら持っていってしまっても問題はない。
向こうの神様に泣きつかれて悩んだ末に考え出した解決策。
とはいえ勝手に魔力が流れることもなく、神様であっても膨大な力の魔力を異世界に流すのは骨が折れる。
そこで渡り人の魂を使って世界を一時的に繋げて魔力をお届けしようというのである。
「もちろんタダとは言わん」
まだ理解ができないうちに神様がさらに続ける。
「とはいっても儂に出来るのはお主にこちらの魔力のいくらかを定着させてやるぐらいじゃから詳しくはあっちの神に聞くとよい」
それは人……神が悪い。タダではないと言いながら何をしてくれるのか結局詳細には言ってくれないなんて。
「例えばどんなことしてもらえるでしょうか?」
とりあえず聞いてみる。
「それはあやつ次第じゃが…………もう一度渡ってさらに魂が強化されてしまえば一からの転生は難しいじゃろう……だから、おそらく今の記憶を保ったまま好きなように転生させてくれるはずじゃ」
すこーしだけ遠い目をして答える神様。
「マジですか!」
怪しい態度だが聞こえきた言葉に思わずテンションが上がる。
転生!
意外と多くの人が想像したことがあるだろうファンタジーの定番。
「まあ魂の存在であるお主に出来ることといえばそれぐらいじゃからのう
どうじゃ引き受けてくれるか?」
「引き受けたら俺はどうすればいいんですか?」
ファンタジーなお話は嫌いじゃない。
こっそりとではあるけれど世界を救う見返りなのだ、転生もそれなりにワガママが通るかもしれない。
急な展開だが悪い話ではない。
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