幼少期2

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幼少期2

 ちなみにルフォンは人狼族という種族である。  こちらもまた希少種族となり竜人族よりも高い身体能力や目や鼻などの五感ははるかに優れている。  竜人族や人狼族は明確に魔人族と呼ばれるが獣人族やドワーフ族などは亜人族と呼ばれることもある。  分類は様々で非常に曖昧なところもある。  しかし真人族とそれ以外の種族は明確に分けられていて各種族に分かれている魔人族も真人族との関係では1つに結束する。  400年前の戦争も魔王率いる魔人族と真人族の戦争であったのだ。  魔族の中でも人が付く種族は他の魔族と真人族の間にあるような種族で人の姿になれたり、人の姿で暮らしていたり人と混じったような容姿をしていることもある。  竜人族も人狼族も通常は人の姿で暮らしている。  先ほどのガキもウォーケックもそうである。  ここに獣人とバカにされる理由がある。  獣人族とは大まかには獣の特徴が混ざった人の姿をしている魔族のことを指す。  内部では細かな分類はあるけど一般に広く獣人族と呼ばれる人たちは見た目で分かることが多い。  どんな見た目かといえばルフォンのようにケモミミが生えていたりリュードのように角があったりする獣人族もいる。  対して竜人族と人狼族の人の姿は完全に人の姿をしていてそうした獣のような特徴が外見に表れない。  普通なら努力しなくても自然と人の姿になれて、角やしっぽが出ることはない。  なのでなりそこない、劣等種、獣人なんて馬鹿にするような言葉を投げかけられることもあるが実際はそうではない。  リュードもルフォンも実は先祖返りと呼ばれる希少種族の中でもさらに希少な強力な個体なのである。  リュードは転生の影響、ルフォンもそんなリュードの魔力の影響を受けたのだとリュードは予想している。  もしかしたら幼馴染として生まれるために神様に何か力でも与えられたのかもしれない。  先祖返りの血が濃すぎて人の姿になっていても本来の姿の特徴が一部そのまま残ってしまっているのである。  気にしない大人や子供も多いのだが、先祖返りの力を畏怖する大人や先祖返りをよく分かっていない子供はそれをからかってきたりもする。  これに関してはリュードはそこそこのイケメン、ルフォンは美少女という見た目上の理由から来ているものも少なからずはある。  何度も言うがルフォンは美少女である。  ガキどもが悪口を言って逃げるのは好きな子にちょっかいを出したい、見てほしいという子供にありがちな心理も働いている。 「ごめんね……」  ルフォンが申し訳なさそうにうつむく。  何に対して謝っているのかはすぐに分かった。  人の姿の時に耳や角が出てしまうのは先祖返りの血が濃く魔力が上手くコントロール出来ていないことが原因であった。  リュードは小さい頃から、もっと言えば転生する前から魔法に関してちょっとだけ知識を持っていたので角を消して完全に普通の人の姿になることが出来る。  ルフォンはまだ子供で魔力コントロールが下手くそなのでちゃんと完全な人の姿を保てず耳や尻尾が出てしまう。  当然できるのだから魔力コントロールの練習も兼ねて角を消して過ごそうとした時期もあった。  しかし幼い頃から先祖返り仲間でリュードだけ普通の人の姿で過ごそうとしていることにルフォンにズルいとひどく泣かれてしまって以来角を消すのはやめている。  角がある方が自然体なのだからこちらの方が楽なんだけどね。  そのような経緯もあるものだからルフォンはリュードもからかわれることが自分のせいだと考えてしまっているのかもしれない。  そう暗い顔をしなくてもリュードが好き好んでやっていることだ。  ルフォンのケモミミや尻尾は可愛いし、角はカッコいい。  それでいいのだ。 「ルフォンは奴らの言葉が嫌だったか?」 「だって私のせいで……」 「俺とイチャついてると思われるのが嫌か?」 「えっ……?」  ルフォンの顔があっという間に真っ赤に染まる。恥ずかしさから枕に顔をうずめて隠す。  しょんぼりしていた尻尾がゆっくりと揺れだす。 「それは……嫌じゃない」 「なら気にすることはないさ」  再び頭を撫でてやるとルフォンは嬉しそうに目を細める。  そう、気にすることはないのだ。  人との融和が進みだいぶ影響を受けているとはいえ、魔人族には未だ根強い魔人族のルールがある。  強いものが偉い。  強者が尊敬され例え頭が良くてもお金を持っていても越えられない壁がある。  ルフォンは先祖返りの影響を受けてかなりの力を秘めている。  仮に怒って本気で戦ったなら多少訓練しているガキとはいっても足元にも及ばず殺されるぐらいの力の差が実はある。  今はまだ相手の力もわからない馬鹿だからしょうがないかもしれないけど近い将来ルフォンとの力関係でみるとルフォンがかなり上位の存在になる。  性別が違うので直接戦うことはないと思うけれど実力の差を目の当たりにする時が来る。  馬鹿にしていたことを覚えているのか、怒っているのかを聞くこともできないまま怯えて過ごすことにもなり得る。  ルフォンがそんな陰湿な女性になるとは思えないけど可愛い子にイタズラを繰り返すようなオスは大体モテなく成長するのが魔族というもの。  上手くルフォンの意識をそらし息も整ってきた。  ウォーケックがリュードを見る目も怖くなってきた。片手も腰の剣の柄にかかっている。  お腹もすいてきた。殺される前にそろそろ家に帰ろう。  とはいっても家は隣だ。  ルフォンと手を振りあっている間に家につく。 「ただいま」 「おかえり、ご飯はもうちょっとよ」 「はーい」  この世界においてただいまとかお帰りとかの挨拶はない。  ないのだけれど癖で帰るたびに言っていたらいつのまにか家族やお隣さんは言うようになっていた。  特に難しい言葉でもないし無言で帰って無言で迎えるというのもなんだか気持ちが悪いからいつか広まればいいなと思う。  入ってすぐのリビングの向こうのキッチンからちょうど料理の盛られたお皿を持ってきているところだった青い髪の美しい女性は俺の母親のメーリエッヒである。  当然竜人族の女性である。 「汗を流してからでいいからお父さんを起こしてきてちょうだい」 「はーい」  我が家には風呂やシャワーの設備がある。  その仕組みは水属性と火属性の魔石を組み合わせてお湯を出すシステム。  魔法で作られた水やお湯は魔力を与えなきゃしばらくしたら消えるし魔石に使う魔力はあまり多くないので風呂は意外に手軽に入れる。  シャワーも備え付けてあるので今はシャワーで済ませようと思う。  このお風呂はどこにでもあるわけではなく、冒険者でもあったリュードの父が特別に備え付けたものらしい。  このお風呂文化はちょっと広まりつつあるらしくて今やリュードの父はお風呂技師として少し忙しかったりする。  普段角はあっても気にならないのだが頭を洗うときは若干邪魔になる。  リュードの父が顔ぞり用に置いてある小さい鏡を見る。  黒髪、黒い瞳、黒い角。将来性を感じる美少年が鏡に映っている。  目鼻立ちは整い、幼さはまだまだ残っているがもうイケメンのオーラがある。  リュードの父も母も顔立ちはかなり良い。リュードは端正できれいな顔立ちの母をベースにどことなく父の優しい感じを受け継いでいた。  もうちょっとキャーキャー言われても、なんて思わなくもないけれど魔人族の価値観が顔以外のところも大きいし竜人族も人狼族も美形が多い。  軽くシャワーで汗を流して綺麗さっぱりしたところで2階にある父の部屋をノックして声をかける。  大体これで起きたことなどないので遠慮なく部屋のドアを開けて中に入る。  さほど広いわけでもない部屋は本で埋め尽くされ、その真ん中に父であるヴェルデガーが寝ている。  村でも有名な本の虫。
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