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初めての力比べ1
特に大きな出来事もなく時は巡り、12歳を迎える年になった。
誕生日こそまだ先なのだが誕生日を迎えて12歳になることより12歳となる年を迎えれば同じ年に産まれた子供たちは皆12歳扱いになる。
年齢的な扱いというより学年みたいに一纏めにされる。
ちゃんと誕生日はあるしお祝いも各々する。
12歳というのはこの村にとって1つ大人になったというべきか、大人と子供の間になったようなそんな年齢と言える。
第1に狩りについていくことが許されるようになる。
これは娯楽が少ない村の子供たちにとって重要なことで、かつ狩りが上手い男はモテるのだ。
村の大事な産業だし子供たちにとっては活動範囲が広がる。
数人で行くならを条件として村から見えるぐらいの範囲だったところを近くの川まで子供だけでいけるようぐらいになる。
狩りの一部として釣りも解禁されるからだ。
魔物の狩りこそ子供だけじゃダメだけど川遊びや釣りなんか出来るのであればそれでも十分楽しめる。
もう1つ狩りの報酬として多少のお金ももらえる。村にいる限りは使い道は限られているがもらえるだけでもうれしいのが子供というものだ。
ほとんどの子供がお金をためておいて大人になったら村の鍛冶師に自分だけの武器を頼む。
それに全く他と没交渉でもなく行商人が来たり、出来た商品を町まで売りに行くこともある。
そうしたときに使ったり買ってきてほしいものを売りに行く人に頼むこともある。
年下の子がうらやむような大が付く変化になる。
第2に魔法教育が始まる。
今までは体作りと簡単な剣の扱い程度だったところに魔法の練習が加わる。
人狼族は魔法が苦手とはいえ、全く扱えないわけでもなく自己強化魔法は得意でよく使ったりする。
竜人族は魔法の扱いにも長けた種族なので今までの訓練に加えて繊細な魔力トレーニングからしっかりとした魔法練習までこなして魔法を使えるようにしていく。
それでもやっぱり感覚派は意外と多い。
竜人族では魔法を上手く扱える男はそこそこモテ、魔法を上手く扱える女はモテるので女の子の方が魔法が上手かったりする。
人狼族でも竜人族の影響を受けて魔法に長けた者も出てきている。
第3に年一回開かれる力比べへの参加が出来るようになる。
力比べとはトーナメント方式一対一で戦いあって優勝者を決める村の伝統行事。
魔族に根強く残る強い者が偉いをハッキリと分かりやすく決めるお祭りのようなものである。
村における一大行事で誰もが優勝を夢に見る。
そうは言うが12歳から15歳までは子供部門しか出られない。
流石に大人と戦うのは酷なのでそうはなっているけれども子供部門でもチャンピオンはチャンピオンでなることができれば羨望の眼差しで見られ、男女のチャンピオンはそれぞれモテるし優勝の報酬もある。
それだけでなく子供部門のチャンピオンは大人部門へのエントリーを許される。
今まで見てきた感じ子供部門のチャンピオンは大人部門の1回戦で負け、チャンピオンといえどもまだまだ大人には敵わないという挫折を子供たちに与えるような役割のシステムに見えた。
大人としてももし負けたら面目もないので子供部門チャンピオンと戦うのは全力だしやりたくないらしいね。
何はともあれ本能も戦いは嫌いじゃないので村中の12歳男子達は魔法に加えてそれぞれの家や友達とで戦いの練習に励んでいる。
かくいうリュードも毎日のように師匠であるウォーケックと鍛錬を重ねていて、密かに12歳で初めてのチャンピオンもあるのではないかと噂されるほどになっていた。
まだ本気ではないの分かっているけどそれでも何回かに1回……十何回かに1回ぐらいは1本を取れるようにはなってきた。
相変わらずルフォンは鍛錬の様子をニコニコと眺めていたりする。
たった2年なのにルフォンの美少女度は増し体つきは段々と女性っぽくなってきていた。
母親であるルーミオラはやや控えめなので期待はできないと思っていたけれど……なぜか寒気がする。
ルフォンは戦いの練習をしなくていいのかと思うけど、どうやら裁縫や料理の方が好きらしくどちらも上手といえる腕前になっていた。
せっかく先祖返りの力があるのにもったいないとは思わなくもない。
でも料理を振舞ってくれて美味しいと言った時のルフォンの顔を見ていればそれで良いのだと思わされてしまう。
多少ルーミオラが稽古をつけていて力比べ女子部門には出るらしいが怪我だけはしないでほしい。
一応ヴェルデガーやその他治療魔法を使える人が待機して怪我前提で戦うのが力比べなんではあるけれど。
「あんた何しにきたのよ」
「何しにって見ればわかるだろ……」
力比べは強制参加ではない。竜人族も人狼族も戦闘民族のような気質を持ち合わせているけれど生まれ持っての個人の性格というものがある。
リュードの父、ヴェルデガーが狩りよりも農業を好むように戦いに参加することを好まない村人もいる。
逆に戦いを好む者でも己の実力をわきまえている者もいる。
なので自由参加になっており村長の家でエントリーしなければならない。
村長の家の玄関横に参加エントリー用紙に名前を記入しているとあんまり会いたくなかったやつが来てしまった。
村長の家から出てきたそいつは腰に右手を当て、左手で俺を指差して訝しむようにこちらを見ている。
テユノ・ドジャウリは村長の娘で竜人族。
やや緑かがった青い髪に美少女といえる整った顔、体つきはスレンダーだが竜人の女性の中でも力が強く魔力もかなりある。
ルフォンが可愛い感じの美少女ならテユノは綺麗な感じの美少女である。
リュードとルフォンと同い年なのだが大分しっかりした感じがしていて大人びて見える。
村長の家の前、ということはテユノの家の前でもあるので遭遇しても不思議ではない。
嫌いなわけじゃないんだけどリュードはこのテユノがやや苦手。
勝ち気というか強気というか、ややキツイ感じの性格をしていて、なぜなのかリュードに対してそれが強く出ているのである。
見た目だけはホントいいのに、胸小さいけど。
「何か今失礼なこと考えませんでしたか?」
ギッとテユノの目つきが険しくなる。
「何も」
確かに考えてたこと失礼だろうなとは思いつつ馬鹿正直に肯定する必要もない。
変なところで勘が鋭い。
あくまでも動揺を見せないようにして短く答える。
信用ならないと目が言っているけど心の中で思ったことなのだから追及しようもない。
テユノはちらりとエントリー用紙に目を落としてリュードの名前を確認する。
「まあいいわ。あなたも参加するんですか、力比べ」
「当然だろ?」
出ないこともまた適正な判断を下したとして非難されることはない。
でもそれはちゃんと実力が分かっているやつの場合で、そうではないやつが出ないとなったら臆病者扱いされることだってありえる。
リュードは実力があると周りも思っているので出なきゃ臆病者扱いされる側になるから当然出場する。
臆病者扱いされるのが怖いからというわけでもないけど。
「でも、その、怪我とかするかもしれないのよ?」
「するかもしれないな」
「怪我したら痛いしみんなきっと手加減なんかしないよ」
「覚悟の上だよ」
「えっと…………あんたなんかコテンパンにやられちゃえばいいのに!」
「いきなり何を……」
テユノはドアが壊れるんじゃないか心配になるほどの勢いで家の中に戻っていってしまった。
会話の中身もよく分からない。要するに実力が足りなさそうだから辞退しろということだったのだろうか。
他の子には姉御肌みたいな感じでいい子なのにどうして自分に対してあんな風になってしまうのか全然理解できない。
思い当たる節はなくても嫌われてしまっているのかもしれないと考えるとちょっとだけショックだ。
傷心気分のまま家に帰るとメーリエッヒが出迎えてくれる。
メーリエッヒも力比べに出場するからちょっと外で体を動かしていたところにリュードが帰ってきたが正しい状況である。
ヴェルデガーは当然出場せず医療班として待機組になっているのでポーションの用意をしたり治療魔法の再確認をしたりしている。
村の大人たちも村の北側にある力比べするために開かれた場所の整備や危険がないように周りの魔物を一掃したりと忙しい。
ウォーケックも力比べに出るため調整を行なっているので力比べまでの数日は自主練となっているのでリュードもメーリエッヒの邪魔にならないところで木剣を使って練習をする。
村は力比べに向けて静かに燃えていた。
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