あたたかな日差しに照らされて

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「あ! あった!」  嬉しそうな大きな声が近くで聞こえた。その直後、わき腹を掴まれ、抱えあげられる。 「どこに忘れたのかと思った。きっとこのあたたかな日差しのせいだね」  私のわき腹を掴んだ女の子が、私を上下左右に動かしながらくまなく全身を見ている。 「奈々子、これで携帯忘れるの何回目? もう首から下げなよ。日差し絶対関係ないって」 「だって今日気持ちいいじゃん。さっき眠たくなったせいだって」 「雨の日でも忘れるくせに」 「え~何~? 聞こえなーい」  あたたかな日差しに照らされていた私はカバンへと突っ込まれた。  私は奈々子の忘れもの。ベンチに座って友達と話していた奈々子。 『あったかいね』と言いながらあくびを漏らし、手に握っていた私をベンチに置いた。  そしてそのまま置いて行かれた。あたたかな日差しは人の行動力を奪い、長くそこにいた奈々子は判断力も奪われて私の存在を忘れた。  でも、奈々子はいつも私を思い出して迎えに来てくれる。きっと、あのまま葉に埋もれてしまっても見つけてくれていただろう。  よく忘れものをするおっちょこちょいだけど、写真が大好きな奈々子にとって私は相棒だから。私がいなかったらダメだから。忘れても、忘れ去られることはない。 「見て、あの子可愛い。葉っぱの雨降らせてる。知ってる子だったら写真撮ったのにな」  ほら、思うことだって一緒。私は時々忘れものになってしまうあなたの相棒。今度は忘れないでね。 --- fin ---
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