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それぞれの夜
とあるコンサート会場。
5千人以上の女性達の歓声が、会場内の熱気を高めていく。
「きゃ~っ、旬~っ!」
長身の引き締まった身体に端正な顔立ち。
ダークブラウンの肩につくかつかないかの長めの癖のある髪が、男性的なセクシャルな雰囲気で、その整った顔立ちをより引き立たせている。
旬、こと相澤旬は、彼女達の熱い眼差しに応える事はなく、ただただステージへの花道を気だるそうに歩くだけ。
アイドルらしからぬ素振りだが、そんな所が彼の魅力の1つでもあった。
「叶多~っ!こっち向いて~っ!!」
中性的な綺麗な顔に、細身だが程よく鍛えられた身体。
さらりと長めの金に近い明るい髪色が、彼が放つ独特な色気と相まって、見る者の目を奪っていく。
叶多、こと神谷叶多もまた、彼女達の熱烈な声援に薄い笑みを浮かべはするものの、アイドルの王道満面の笑顔で手を振る様な仕草は1片も見せる事はなかった。
しかしながら彼女達は至極ご満悦。
「やばい~っ、超格好いい~っ!」
「格好良すぎる~っ!」
日本を代表するアイドル事務所、オリバーエンターテインメントに所属する彼らLuster(ラスター)は、まだデビューする前だというのに多大な女性達の注目を集めている。
「盛り上がってるかぁ~っ?!」
少し掠れたハスキーボイスで叶多が問いかければ…。
「「きゃ~っ!!」」
甲高い声が会場全体に響き渡る。
「よっしゃっ!でもまだまだこれからっ、もっともっと盛り上がってくぞぉっ!」
低く甘い声で旬が彼女達を煽ると…。
「「きゃ~っっ!!」」
歓喜と狂気が入り交じり、女性達のボルテージは最高潮に達していった。
Lusterのツートップ、旬と叶多が熱いステージを繰り広げている中。
都内某所のスタジオでは、同じオリバーエンターテインメントに所属する彼らの先輩にあたる男が、撮影を一段落させていた。
「お疲れ、斗真」
斗真と呼ばれた甘いマスクの長身、薄茶色の艶のある短めの髪の男、こと矢口斗真は、彼のマネージャーの呼びかけに軽い溜息を漏らした。
「はぁ~、お疲れ~っす…」
オリバーエンターテインメントで昨年デビューしたばかりのMiracle(ミラクル)の顔。
期待のルーキーとして今1番の注目株である斗真の日々は忙しい。
早朝より仕事が何本も続き、最後のこの撮影が予定より1時間近くオーバーとなれば、疲労と不満が溜まり、普段愛想のいい彼の眉間にも少しばかり皺がよる。
「こら、溜め息なんかつくなよ。もうちょっとで終わるからさ。はい、飲むだろ?」
そんな彼の態度を咎めつつ、しかし労る事も忘れないマネージャーの気遣いに、斗真も渋々態度を改めた。
「どうも…」
肌寒さを感じるスタジオ内で、暖かく甘いカフェオレが疲れた身体と心に染み渡り、斗真の気分が幾ばくか和らいできた時。
「あ、ってかさ、俺さっき会長から超やばいニュース聞いちゃったんだけどさ~」
思い出した様に何やらドヤ顔でそう口にするマネージャーに、斗真の視線がやっと彼に向いた。
「は?超やばいニュース?」
「うん。なんとね……」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、何故か勿体ぶる素振りを見せるマネージャー。
彼のいうやばいこのニュースのおかげで、まさか自分が今後起こるごたごた劇に巻き込まれる事になるなんてのは、この時の斗真は欠片も思っていなかった。
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