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第二話 隠す想い
「───だから、ここのダンジョンはこっちに曲がって…」
「っあー!なるほどな!オッケーオッケー!行ってみるわ!」
あの言い合いの後、俺は御堂の家にお邪魔していた。真っ直ぐに部屋に向かい、飲み物取ってくる、と言っていなくなった御堂をソワソワして待った。…いつ来ても、慣れないから。少し散らかった部屋、朝まで寝起きしていたであろう跡のついたベッド、本棚に並ぶ漫画本。……御堂の、家での生活が滲み出ていて、なんだか居心地が悪かった。
「っはー!やぁっと攻略できたわ!やっぱゆーきが居るといないじゃ全然違うなー!」
「…あ、そ。」
ニカッ!と笑う御堂に適当に相槌を打つと、彼はコントローラーから手を離し、「休憩〜」と言うやいなや、俺の身体に擦り寄ってきた。…これだ。慣れない理由はこれにもあった。御堂は学校から出るとスキンシップが増える。いや、学校でもそれなりにスキンシップはあるけど、家だと気が抜けているのか、学校よりも多い。抱きついてきたり、こうやって擦り寄ってきたり。おかげで、俺の心臓はいくつあっても足りない。
俺は、御堂が好きだ。
もちろん、恋愛対象として。
元々、女性よりも男性に惹かれることが多かった。かと言って恋愛対象になる人なんて居なかったし、精々憧れや尊敬程度だった。それがまさか、同級生の、しかも仲のいいと周りに言われるくらいの友達を好きになるなんて、思わなかった。
…だからさっきの教室での物理的距離の近さも、今も。俺の気持ちが聞こえませんように、と願っている。もっとも顔は熱を帯びているから、傍から見ればバレバレなんだろうけど…相手は、御堂だ。俺がどういう思いをしてるなんて分かってないんだろう。
「……なんか熱くねぇ?」
「っなに、が?」
「なにって…ゆーき、なんか身体熱くない?まさか、風邪か!?」
「いや、違うよ。ちょっと、最近寝れてないだけ。」
咄嗟の嘘は、さすがに見破られてしまうだろうか。そろっと目を逸らした俺に御堂は一瞬の間を作ったあと、なぁんだ、そっか!と言って笑った。ほっとしたのも束の間、俺はいつの間にか御堂のベッドに寝かされていた。突然のことに、目を瞬かせていると御堂が意地悪気に笑い、見下ろしてくる。…まだ夕方で明るいのに、見下ろす御堂が眩しくて、目を細める。
「……御堂?」
黙り込んだまま俺を見下ろす御堂に、心臓が破裂しそうになるくらい高鳴る。スッと御堂の手が伸びてきて、反射的に目を瞑ると顔を通り越して、ソレが俺の額に乗る。少し冷たい手は俺の熱くなった顔にはちょうど良かった。ふ、と漏れてしまった息を聞いてか、御堂は額から手を離す。疑問を抱き、目を開けると見下ろしたソイツは驚いた顔をしていた。……なんだよ。
「お前、熱あるじゃん!なんで言わねぇの!?」
「え?いや、ないでしょ。」
「あるって!あっついもん!ちょ、ちょっと待ってろ、確か母ちゃんの部屋に体温計あるから、持ってくる!」
「あ、おい…!」
上半身を起こした俺の静止も聞かず、御堂は部屋を出ていってしまった。…もう、いいや。多分あれは何を言ってもダメだろう。諦めて起こしていた上半身をぼす、とベッドに落としてまた横になる。その瞬間、ふわっと香ったのはこのベッドの持ち主である御堂の匂いで、思わず飛び起きた。…まずい、ベッドは、まずい。今にも張り裂けそうな、なんなら高鳴りすぎて止まりそうな勢いの心臓を抑えつつ、俺はベッドから降りて御堂を待つことにした。
戻ってきた御堂に「寝てろ!」と怒られながらも、俺はこの現状を非常に良くないと考えていた。問答無用で差し出された体温計を受け取りつつ、素直に脇に挟む。ちら、と顔を窺うと薬を手にしては首を傾げていて、面白くなってこっそり笑った。
俺の気持ちは、コイツに知られてはいけない。この友情が、壊れてしまうかもしれないから。だから今日も俺は、御堂が好きだと言ってしまいそうになる口を抑えて、一緒に過ごしていく。
それが一番、…幸せだから。
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