第三話 不審な行動

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第三話 不審な行動

その日の御堂は朝から何処かおかしかった。昼飯はいつも俺を問答無用で誘って、放課後も家に誘ってくるくらいだったのに、その日は違っていた。 昼飯を食べるのを忘れるくらいぼーっとしているし、放課後になっても上の空で、俺が声をかけると過剰に驚いて予定があるから、とさっさと帰ってしまった。その時は本当に予定があるんだろう、と気にしていなかったが家に帰って一人になってよく考えてみると今日一日、俺を避けていたような気がする。そう思うと、顔から血の気が引いた。まさか、俺の気持ちを知って、避けているんじゃ。飛び起きて、この間とは違う鼓動の高鳴りに脂汗が出てくる。深呼吸して、落ち着かせる。一つ一つ、今日の御堂の様子を思い出していくことにした。 朝、いつもは家の前で待っていたのにいなくて、寝坊でもしたのかとLiNe(リネ)を確認したけど連絡は入ってなくて、疑問に思いながらも一人で登校すると、御堂は既に居て、先に来てたんだ、と席まで言いに行くと、上の空のまま「おー…」なんて答えられて、眠いのかと思って話をそこで終わらせ、自分の席に戻った。 昼休みになっていつもは「ゆーき!飯!行くぞ!」と寒くても暑くても屋上に誘ってくるのに今日は無いから、どうしたのかと思ってまた席を見るとぼーっとしているから「飯は?」と聞きに行くと、ハッとしてへらっと笑ってから鞄から弁当箱を取りだして机の上に置いたので、今日は教室なのか、と前の席のヤツの椅子を借りて目の前に座った。黙々と食べている御堂を盗み見つつ、俺も飯を食べていると、急にダン!と御堂が手を机に叩きつけて、ビクゥ!と肩を弾ませる。クラスメイトらも何事かとこちらを見ていたけど、俺が聞きたい。叩きつけたあとも、何かを考えているのか御堂は周りが見えていないようだった。「どうしたんだよ」と俺が聞いても集中していたのか、数秒後にハッとして「何もねぇよ」なんて答えられた。昼飯も、特に会話はなかった。 放課後になってもどうせ今日は席まで来ないんだろう、と踏んでいると本当に来なくて、ため息をついて鞄を持って席まで行く。「ホームルーム終わったぞ」と声をかけると、御堂は立ち上がり、慌てて鞄を手に取ると、目の前の俺を無視したかのようにすぐに居なくなる。は?と思ったのもつかの間、教室を出ていく前に「予定があるから今日は先に帰る!」と叫んで帰っていった。……予定があるなら、仕方ないか。と特に何も思わず帰って、部屋で横になってから、今の時間まで考えていたけど、どう考えても行動がおかしい。 『ゆーき!』 「…もし、俺の気持ちに気づいたなら、」 あんな風にはもう、笑ってくれないのかもしれない。そう思うとじわり、と涙が浮かぶ。手で顔を覆ってグルグルと考える。これからどうしよう。どんな顔で、どんな声で接したらいい?アイツが俺の気持ちを知って、今日みたいに避けるなら、…もう、友達ではいられない。少しずつ距離をとって離れよう。…そう考えた。 明日からの接し方を考えていると、スマホが鳴る。…電話だ。今は誰とも話したくないんだけど、と思いつつも手に取ると表示された名前は『御堂』の文字で、慌てて電話に出る。もしもし、と言った俺の声は上ずっていなかっただろうか。震えてはいなかっただろうか。そんな俺の不安を打ち消すかのように、電話越しの御堂はいつものテンションで俺を呼んだ。 『ごめん、悪いんだけど今外出てこれるか?』 「え…別にいいけど…なに、お前今外なの?早く帰ったのに。」 『まあまあいいから!早くしろよ!』 そう言って切られた電話を見つめて、仕方なしに外へ出るために階段を下りる。一体、なんだというのだろう。今日一日俺を避けていたくせに、呼び出すなんて。御堂と俺の家は隣で、外へ出ればすぐ御堂の家だ。玄関の扉を開けると、御堂は俺を見ると嬉しそうな顔を浮かべて「ゆーき!」と呼んだ。 「どうしたんだよ、急に呼び出したりなんかし、って!?」 「これ!あげる!」 話を遮るかのように差し出されたそれは、紙袋に入った何かで、なんだろうと疑問を抱く。…というか、あげるってなんでだ。何か、御堂に貸していただろうか。考えているとズイズイと押し付けられて仕方なく受けとり、中を開ける。そこには分厚い布袋があってそれも開ける。重厚そうな箱はまさか、と思いパコ、と開く。入っていたのは高そうな腕時計だった。「は!?」と声を上げる俺を他所に、御堂はへへ、と笑って言った。 「お前、これ欲しいってこの間雑誌見ながらボヤいてただろ?今日、近所の時計屋が入荷したって聞いたから小遣い前借りして、買ってきたんだよ!」 「いや…え?これ…めちゃくちゃ高いだろ?ていうかあんな話、覚えてたのか…!?」 「?そりゃあな。ゆーきの言ったことは俺、いつも覚えてるし!」 「じゃ、じゃあ今日一日、俺を避けてたのは…?」 「?避けてねぇよ。早く放課後になって買いに行きたかっただけだし、取り置きお願いしたけど、誰かに売られてたら嫌だったし…それに、昼休みにお前の喜んだ顔を想像したら、嬉しくなっちゃって!思わず机叩いちまったけど…」 …なんだ、それ。モヤモヤしていた気持ちがどんどん晴れていく。大きく息を吸い込んで「は〜…!」と思い切り吐き出した。同時にしゃがみ込む。…俺の、取り越し苦労だった。というか、俺を避けてなんかいなかった。寧ろ俺のために、小遣い前借りして、買ってくれた。誕生日でも、クリスマスでもないのに。 「ゆーきー?どうしたー?」 俺を呼ぶその声が、愛おしくて仕方ない。じわじわと沸き上がる感情を抑えきれない。顔が熱を帯びる。ダメだ、ダメだダメだ。言ってはいけない、いけない、のに。 「───めっちゃすき…」 「えっ」 俺の漏らした言葉に、御堂は驚きの声を上げたまま固まっていた。まずい、間違えた。今じゃない。というか、言わないつもりだったのに。慌てて立ち上がって御堂の顔を見ないように目を伏せる。 「!あ、いや、ありがとうな!わざわざこんな…気ぃ遣わせたよな!ごめん!ありがとう!それじゃ…その、じゃあな!」 「あ───」 バタン!と玄関の扉を思い切り閉じる。ズルズルと背中を扉に預け、その場にしゃがみこむ。…言っちゃった、言っちゃった…!熱くなる顔と浮かぶ涙。…もう、取り返しのつかないことをしてしまった。……本当に嬉しかったのに、もう御堂の顔が見れない。 明日から、どうやって過ごせばいいんだろう。
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