第四話 変わる関係?

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第四話 変わる関係?

「おー。おはよ、ゆーき。」 「……おはよう。」 次の日、憂鬱な気分のまま、玄関の扉を開けるとそこに御堂は立っていた。いつもと変わらない態度で。正直、拍子抜けだ。もっと朝から避けられるくらいのことを覚悟していたのに。…いや、もしかしたら聞こえていない可能性もある。そうだ、どうしてその可能性を考えなかったんだろう。御堂の性格からして、昨日のことをすぐに聞いてくるはずだし、何だったら「俺も好きだぜ!(友達として)」くらいのことを言ってきてもおかしくはない。……あまり深く考えないでおこう。聞こえなかったなら、都合がいい。一生、言うつもりはなかったんだから。 その後も御堂はいつも通り、無意味に肩を組んできたり顔を寄せてきたり、スキンシップは多めだった。もし俺の気持ちを分かっていてこの行動をしているなら相当罪深い。同性でよかったな、と素知らぬ顔で笑っている御堂を盗み見る。異性だったら絶対勘違いさせているだろうし。俺は同性で自制してるから勘違いなんてしない。そもそも御堂にはちょっとふんわり系の可愛い子が似合──いや、止めておこう。辛さで自分の首を絞めるだけだ。 「御堂、帰ろ。」 「!おー!」 「今日ちょっとコンビニ寄っていい?腹減った。」 「俺も〜!…あのさぁ、ゆーき。昨日の、」 「あ、あのっ!悠貴センパイ!」 話しながら教室を出た俺たちを呼び止めたのは、一学年下の女の子だった。俺の名前を知ってるってことは、委員会が一緒だった子だろうか。今日は確か、委員会の日じゃなかった気がするけど。その女の子の名前が思い出せないまま、どうしたの?と聞くと、彼女は手を胸の前で組んで、えっと、と言葉を選んでいる様子だったが、突然深呼吸したかと思えば「お話があるのでちょっといいですか!」と叫ぶ。…話? 「ここじゃダメな話?」 「っこ、ここじゃ人目につきますし…だ、大事な、話、なんです…っ!」 「(委員会でわかんないことでもあったかな)まあ、そこまで言うなら。」 「!ありがとうございます!そ、それじゃあ…今、良いですか?」 「おー。…悪い、御堂。すぐ済ませてくるから待って、てっ?」 御堂に一言告げて、女の子に着いて行こうとした俺の鞄が後ろに引っばられて動けない。振り向くと御堂が眉間に皺を寄せて鞄の紐を掴んでいた。そんな表情の御堂は初めて見たから、一瞬息が出来なかった。「悠貴センパイ?」と少し先を歩いた女の子に再び名前を呼ばれて、ハッと我に返る。…行きたいのは、山々なんだけど…御堂が鞄から手を離さない。グイグイと鞄を引いてもビクともしないし、なんならずっと無言なのが異様に怖い。…なんだよ、もう。女の子に先に行っててと言うと、彼女は不満げな顔を浮かべたが、すぐに切り替え、体育館裏で待ってますと言い残し、彼女は歩いて行った。女の子のことは、いい。話を聞くだけなんだから。 問題は、未だに黙ったままで険しい顔を浮かべるコイツだ。 「なに?どうしたの。」 「……行くのかよ。」 「?だって話があるって言われてるから。行かないわけには、」 「アレ、絶対告白だぞ。」 「………こくはく?」 「ゆーき、後輩に人気なんだって。田中が言ってた。」 不貞腐れたように言う御堂はいつもとは違ってなんだか本当に怒っているような気がする。…ていうか、後輩に人気、ってなんだよ。初めて聞いたぞ。そもそも告白されたことなんて一度も無いし。田中のヤツ、御堂相手に何言ってんだよ。コイツにだけは誤解されたくないのに。あの女の子が本当に告白のために呼び出したんだとしても俺は行かなきゃいけない。想いに応えることは出来ないって伝えなきゃ。 「告白なら、尚更行かせてよ。」 「やだ。」 「やだって言われても…行くって答えちゃったし、」 「行くなよ!お前が好きなのは、俺なんだろ!?」 「────」 御堂の叫びに、今度こそ息ができなかった。…聞いていたのか、昨日の言ってしまった過ちの言葉を。ピシリ、と固まった俺を他所に、御堂は言葉をつらつらと連ねていく。でも俺の耳には何も入ってこない。知られていた、のにどうして今日はいつも通りにしてたんだ、とかじゃあスキンシップは減るはずだろ、とか今も気持ち悪いと思われているんだろうか、と頭の中がこんがらがって、グルグルと回る。 「だから───って、ゆーき?」 「…俺の、昨日の、」 「…聞こえてたよ。俺がゆーきの言葉を聞き逃すわけないだろ。」 「…じゃあなんで、……っ気持ち悪いって思ってるか?」 「はあ?なんでそんな、」 「男が男を、しかも友達を恋愛対象に見てるとか、嫌だろ!?」 「何言っ」 「ああそうだよ!俺はお前が好きだよ!無邪気に寄ってきて!ニコニコ笑って!スキンシップだってどれだけ心臓が張り裂けそうになったか、お前知らないだろ!?お前が俺を呼ぶ度に、好きな気持ちが溢れ出して行くんだよ!…もう、止められないんだよ…!……頼むから、無理なら無理って、振ってくれ…!」 そこまで叫んで、目に涙が浮かぶ。…かっこ悪い。こんなの、駄々を捏ねた子供だ。自制していたはずなのに、出来ていない。そんな自分に嫌気が差す。ポロポロと流れ出す涙を止めることも出来ずに唇を噛み締めて御堂の言葉を待つ。──瞬間、ふわり、と柔らかく抱き締められる。ハッと息を呑む。なんで、こんなこと…!くしゃり、と顔が歪む。こんな時にまで、スキンシップかよ…! 「離せよ…」 「離さないよ。ゆーきが泣いてるもん。」 「頼むから、離してくれ!俺、お前のことが好きなんだぞ!?」 「うん。」 「気持ちっ、悪い、…だろ!」 「気持ち悪くねぇよ。」 「っなんで…こんな、こと…」 「んー…多分、俺もお前が好きだからじゃない?」 「────は、あ?」 突然の爆弾投下に、間抜けな声が出る。あんなに流れ出ていた涙も止まった。御堂の俺を抱きしめる腕の力が強くなる。顔が、見えない。 「俺さぁ、昨日のゆーきの言葉を聞くまで本当にただの友達だと思ってたんだけど、」 「っ、」 「でもいざお前にさっきの子みたいな、かわいー子に告白されてゆーきがソレを受け入れちゃったら、めちゃくちゃ嫌だ!ってなってさ。俺がいちばん、ゆーきのこと分かってるのに、ぽっと出のヤツに取られたくない!って思ってたら、いつの間にか鞄掴んでた。」 「……」 「……まあ、ゆーきが俺を好きだなんてことを知らなかったから、いちばん分かってるってのは間違いかもしれないけど。」 「……っ」 「だから告白なんか聞く必要ないって!お前は俺が好きで、俺はお前が好きなんだぞ!両想いってことは、今日から恋人になるんだからな!」 その言葉に、抑えていた気持ちがどんどん溢れていく。同時に止まっていた涙がまた流れ落ちる。これはさっきみたいな悲しい涙じゃない。嬉しくて泣いているんだ。思わずぎゅうぅ、と御堂を抱きしめ返すと、ピシリ、と石のように固まってしまった。不審に思い、一度身体を離し、御堂の顔を覗き込むと、真っ赤に染め上がった御堂がそこに居て。見たことがない顔に凝視してしまった。 「なに、その、顔、」 「い、や〜…?なんだろうな〜…多分、ゆーきからされるのに慣れてないから、かな。」 「………なるほど。」 「んっんん゙ッ!…お前ら、ここが学校って忘れてないか?」 咳払いとともに聞こえてきた田中の声に御堂と二人でそちらを見ると、クラスメイト達がニヤニヤと笑っていた。手にはいつ作ったのか、おめでとう!と描かれた団扇が掲げられているし、クラッカーが鳴らされている。今日は赤飯だなー!とかいう声も聞こえてきて。 「な、なな…お前ら、いつから…っ!」 「最初からだっつーの!もだもだもだもだしやがって!」 「せ、せめてなんか言えよ!?」 「いやいや!無理だろ!?俺らが教室から出る前にお前らが話し始めたんだし!内容的に出るに出られないしよ〜…」 「でも、良かったよねー!ウチのクラス名物が漸くくっついて♡」 「本当それな!見守ってた甲斐あったわ〜!」 言いたいことを我慢していたのか、ワッとクラスメイト達は各々話し出す。主に、俺と御堂のことについて。断片的にしか聞こえなかったけど、周りから見たら付き合っているようにしか見えなかったらしく、加えて俺があまりにも態度に出してるから「いや御堂気づけよ!?」とハラハラしながら見守っていてくれたらしい。…偏見がなくて本当にいいヤツらだと思う。でも待って欲しい。俺の、告白も、御堂から言ってくれた言葉も、全部全部聞かれていたと思うと、恥ずかしくて仕方ない。 「〜〜〜っも、ういいだろ!?俺たちもう行くから!」 「あ、悠貴〜!」 「なに!?」 「おめでとー!」 ヒューヒューとクラスメイト達に冷やかされて、益々恥ずかしくなって「うっせーばーか!」と小学生みたいなことを叫んで、御堂の腕を掴んで歩き出す。───下駄箱まで歩いて、御堂の腕から手を離し、ふぅ、と息をつく。…さて、そろそろ行かなきゃ。 「じゃあ、行ってくるから。」 「は!?だから、行く必要ないって!」 「いや、行くって言っちゃったから。」 「ダメだってば!」 「断ってくるだけだって。」 「………断る?」 「そうだよ。…俺は、お前が好きで、お前も俺が好き、なんだよ、な?」 噛み締めるように聞くと、御堂は呆気からんと「うん。」と即認めてくれたので、実感する。なら、答えはひとつじゃないか。 「ごめんなさい、付き合えないって言うだけだよ。」 「……受け入れないのか?」 「なんでだよ。俺には好きな人がいるので、ごめんなさいって言うだけだよ。それならいいでしょ。」 「……なんだ、俺てっきり告白って絶対に受け入れないといけないものだと思ってた……なら、いいや!ここで待ってる!早く帰ってこいよ!」 座り込んだ御堂に頷いて見せてから、歩き出す。…身体が軽い。昨日まであんなに悩んでいたのに。思わず、走りたくなって、走った。息が上がる、足が少し縺れる。でもずっと、ずっと走れる気がした。 嬉しさで、何処までも行ける気がする。 御堂と一緒だったら何処までも。
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