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第一話 仲のいい友達
キーンコーン、と学校のチャイムが校舎に鳴り響く。ホームルームが終わり、担任の教師は気をつけて帰れよ、と告げてから去っていった。クラスメイトらが各々話をしだす。大概が放課後をどう過ごすかの相談だ。教室で最近流行りのダンスをして撮影しよう、という楽しげな話や、ファーストフード店に行って語り合おう、という何処か深刻な話だとか、これから部活なんだ、と憂鬱そうに話していたり。そんなクラスメイト達の話を耳にしながら机の横にかけて合った鞄を手に取る。……と、背中がドスン!と押されて「ぐぇ、」と呻き声を出したあと重さに耐えきれず、机に突っ伏す。……重い。
「ゆーき!何考えてんだよ!えろい事か!?」
「…別に、何も。ていうか、重いから早く退いて。」
「何考えてたか教えてくれるなら退く!えろい事だろ!?」
「なんでそうなる……放課後、どうしようかなって考えてただけだよ。」
素直にそう告げると、背中に乗ったソイツは納得したように退いた。鞄の硬いところが額に押し付けられていたので少し跡になっている。そこを擦りながら立ち上がると、ソイツが今度はズイッと顔を寄せてくる。俺よりも少しだけ低い目線を上げるソイツに視線を合わせると、何故か不服そうな顔を浮かべていた。…なんだよ。
「放課後どうしようって、今日も俺と家で過ごすんだろ!?」
「え…いや、最近そればっかりだから流石に遠慮しようかと…」
「はぁ!?なんだよそれ!俺、聞いてない!」
「わざわざ言うことでもないでしょ。ていうか、連日家で遊ぶだけならまだしも、夕飯も一緒じゃん。悪いしさ。」
「?何が悪いんだよ。俺の母ちゃんが、お前なら大歓迎だっつって飯作ってんだぞ!毎日来てもいいって言ってたし!」
「いや文字通り受け取るなよ。社交辞令だろ?」
呆れたようにそう言うと、ソイツは首を傾げてなんのことを言ってるか分かりません、みたいな表情になる。…まあ、社交辞令をするような人では無いのは知ってるけど。そろそろ、俺が気を遣う。一人分の食費だって、馬鹿にならないだろうし。
「シャコージレー?…よく分かんねぇけど、母ちゃん、ゆーきなら気にしないからいつ来てもいいって。」
「そりゃお前の母さんはそうかもしれないけど。俺が気にするんだよ。」
「何でだよ!気にする必要ねぇだろ!」
ムッとするソイツの叫びが教室に響き、当然話が聞こえているクラスメイトらがクスクスと笑う。…こんなふうに言い合うのは日常茶飯事だ。主に、俺が遠慮するとコイツが嫌がる。もっと遠慮すると、駄々を捏ねた子供みたいに怒ったような顔をして叫ぶ。…高校生でこれって、幼すぎる気もするけど。の割には『えろい事』には敏感なんだよな。すぐ聞いてくるし、何かあれば『えろい事』に繋げようとするし。よく分からない。
「御堂、たまには悠貴の行きたい所とか行ってやれよ〜!」
「はあ?ゆーきの行きたい所は俺の家だろ?なっ!」
「いや…(たまには本屋とか行きたいんだけど…)」
「なんだよ、その反応。俺の家以外に行きたい所、あるのかよ!?」
「……(まあ、別に本屋は休みの日に行けるし…)ないけど。」
そう答えると、ソイツ───御堂光は、パァァッと顔を輝かせてニコニコ笑う。そしてガッ!と肩を組んで、そうだよな〜そりゃそうだよな〜!なんて嬉しそうに言いながらウンウンと頷いている。…喜んでもらえて、何より。自然に組まれた腕を外していると、クラスメイトの一人がしみじみと、呆れたように言った。
「お前ら…本当に、仲良いよなぁ。」
それに対して、御堂はにっこり笑顔をもっと深く笑って、また俺の肩をガッ!と掴んで顔を寄せて叫ぶ。だろ!?と。俺のことを考えないその物理的距離の近さに固まっていると、御堂は不自然さに気づいたのか、どうした〜?と覗き込んでくる。……本当に、よく分からない。
「…家、行くんでしょ。」
「!そうだった!んじゃ、帰ろうぜ!今日は〜ゆーきにダンジョン攻略手伝ってもらうんだ!」
先に歩き出す御堂の背中を追う。耳まで赤くなっている俺の顔に気づかれませんように、と願いながら。
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