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通話を切り、光を放っているものに手を伸ばす。
私の薬指にジャストフィットした指輪を眺めていたら、涙が零れた。
立ち上がり、走り出す。
廊下に降り積もった雪に足を取られながら、階段を二段飛ばしで下る。
「拓海!!」
マンションのエントランスの向こうに、白く染まった世界の中、頭に雪を積もらせた拓海が私を見て目を細めていた。
「おかえり、……えっと、メリークリスマス」
「ただいま、サクラ。メリークリスマス!」
クシャリと細くなる目、口元から零れる八重歯、頬に浮かんだえくぼ、ハスキーな笑い声。
大きく腕を広げて私が飛び込んでくるのを待っているみたい。
返事がイエスだなんて、まだ言ってもいないのに自信満々じゃないか。
手も耳も頬も寒さで真っ赤になりながら、子供みたいに嬉しそうに笑ってる。
返事を焦らすように、背伸びして拓海の頭の雪を払うと、私の指にはめられたものに気づいたようで、目を細めた。
「結婚してよ、サクラ」
「……、する、うん、しよう?」
恥ずかしさに苦笑して、そっと見上げたら、雪と一緒に降ってきた唇。
その冷たさを温め合うように、何度も重ね合って、少しの隙間も埋め合うようにしっかりと抱きしめあう。
それから、めでたしめでたしで終わったわけじゃなく、実は少しだけ揉めた。
私が、廊下に出していた拓海の荷物の件をすっかり忘れていたこと。
拓海が雪だるまを作っている間、雪の上に置かれていたケーキの箱がベチョベチョになってしまったこと。
いつもみたいに些細なケンカをして、今度は私が緑色の誓約書にサインをするのは、日付が変わった頃の話。
――Marry me & Merry Christmas――
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