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――雪が、降ってきたよ。
信号を待つ間、一言だけのメッセージを送る。
吐く息の白さが、今年一番の寒さを物語っていた。
マフラーを鼻まで押し上げ、鉛色した雲を見上げたら、冷たく白いものがはらりと目の中に落ちてくる。
まだみぞれ混じりの雪は、雫となって涙のように頬を流れた。
それを拭うようにしてから、スマホを覗く。
既読にならない画面をオフにし、青に変わった信号を歩き出す。
今夜は鍋にしようかな、うん、そうしよう。
クリスマスイブだから、ちょっと特別な鍋、すき焼きとか、たまには贅沢してもいいよね。
プレゼントは何にしよう?
やっぱり奮発して、時計? それとも欲しがっていたスニーカー?
明日にはクリスマスを迎える街には、浮かれた恋人たちの姿が嫌でも目に入る。
別に羨ましいわけじゃない、微笑ましいとすら思えた。
前から歩いてきた初々しく笑い合うカップルを眺め、自分らも三年前はああだったっけ、なんて懐かしさに目を細めた後。
――時が止まってしまったかと思った。
クシャリと細くなる目、口元から零れる八重歯、頬に浮かんだえくぼ、ハスキーな笑い声。
彼女に向けた笑顔のままで、前を向いた彼氏と視線が絡む。
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