56人が本棚に入れています
本棚に追加
この広い都会の中、住んではいない街で偶然バッタリ出逢うなんて、まるで運命よね。
私は時が止まったかと思ったけれど、向こうは心臓が止まったような顔をしていた気がする。
横断歩道の真ん中で立ち止まってしまった彼を、十代にも見える愛らしい彼女は、バンビのような大きな瞳で見上げて。
「どしたの? たっくん?」
たっくん、たっくんだって、たっくん。
彼の横を通り過ぎた瞬間に、笑いがこぼれた。
拓海だから、たっくんか、かーわいい。
信号を渡りきりクルリと振り向くと。
彼女に引っ張られるようにして向こう側に辿り着いた「たっくん」こと拓海が、何か言いたげに私を見ている。
私はそれを無表情のまま、一瞥して背を向けた。
うそつき。
歩きだした私は少しずつその速度を増して、しまいには駆け出していた。
付き合ってから三年の間、彼に女の影が無かったわけじゃない。
モテるのは知っていたし、一方的に女の子の方から言い寄られていた。
その度に、自信を無くしてもう別れよう、って言い合いになって。
最後にそんなケンカをしたのは一年前だったかな。
そういえば、あの誓約書、どこにあったかな? 無くしちゃったかも。
最初のコメントを投稿しよう!