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「年明けから? バイト?」
「いいえ、明後日から」
「え? クリスマスだよ?」
「イブとクリスマスはケーキ売りのバイトをして、あと年末は神社の初詣客を整理するバイト。正月二日から一週間ほど、デパートの福袋売り場で、そこからコンビニのバイトが決まってます」
「めっちゃ働くじゃん」
「派遣と違って時給そんなに良くないし」
「だとしてもだ。せめてクリスマスくらいは彼女と過ごしてあげないと」
「へ?」
野添くんのすっとんきょうな返事に顔をあげたら、困ったように眉尻を下げた。
「いないんっすけど?」
「え? 嘘だ? モテそうなのに?」
「あーあ、やっぱわかってなかった、わかってもらえてなかった」
「なに?」
深くため息をついた野添くんが、足を止めて私に向き直る。
「俺、ずっと片瀬さんにアプローチしてたの、本当に気づいてなかった?」
……、あれ?
――今度一緒に飲みに行きましょうよ!
――会社の近くの坂道がクリスマスイルミネーションで今めっちゃキレイなんですよ、一度見に行きません?
――片瀬さんの好きな曲教えて下さい。聞いてみたくて。
もしかして、今までのって……、あ、れ?
「気づいてなかった……」
しばしの沈黙の後、呆然とつぶやく私に野添くんは「やっぱりー!」と悲し気な声をあげた。
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