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「片瀬さんは彼氏とか、その」
「い、いないけど」
待って、ねえ、やばい!
こういうのって突然言われちゃったりしたら、人間挙動不審になるし、とてつもなく意識し始めちゃうんだ。
可愛いだけの男の子だと思ってた。
素直で優しくて癒し系だなあなんて思ってただけの彼が、まさか私のことをそんな目で見ていたなんて。
困る、とっても困ると言うのに、なぜだろうか? 恥ずかしくて、でも嬉しくて、上昇した体温が私の耳まで赤く染め上げている気がする。
折しもクリスマス時期だし、彼氏いない歴二年になる二十八歳OLは、二十四歳可愛い男の子からのサプライズ告白に不覚にもクラクラし始めている。
「ほ、本当は、その、ライブでかっこいいとこ見せてから徐々にって思ってて……でも、どうしよう。もう言っちゃったも同然だし」
今更、動揺し始めた彼の困った顔がおかしくてクスクス笑う。
「クリスマスケーキ売りのバイトって、何時に終わるの?」
「え、っと二十時頃って」
「んじゃ、その後お疲れ様会でもしよっか? 野添くんの用事がなければ」
「な、ないっ、ないんで! 是非っ!」
寒さなのか、嬉しさからなのか紅く染まった頬。
クシャリと目を細め、八重歯をこぼして嬉しそうに笑った彼を見て、初めて胸の奥で何かがコトリと動く。
それがハジマリの合図と気付いたのは、約束のクリスマスの夜のこと。
コトリと動いて芽生えたものは、愛しさだった。
***
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