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⑩川瀬side
行方不明だと聞いて、
そんな馬鹿なと思いながら
ある種の責任感から探し始めた。
そのうち、意地でも見つけてやるんだ
という使命感が芽生えた。
見つかったら怒ってやろうと思っていたが、
いざ彼の顔を見たらそんな事は
どうでもよくなって。
愛おしさのあまり、
思わず抱きしめてしまいたくなった。
でもその気持ちは胸の中に閉ざしたまま、
ぶっきらぼうに振る舞った。
電車に乗り込み席に着いたら、
それまで彼の腕を掴んでいたのも
恥ずかしくなった。
「・・・眠っちゃった?」
眠気に勝てずに目を瞑った俺に、
少し寂しそうな彼の声が降り注がれて。
無理にでも目を開けようとしたが意識は
既に朦朧としていて、
それを叶えることは難しかった。
いつもは眠ってしまう彼を起きて
フォローするのが役目だが、
日頃「俺様」を演じているのも疲れるんだ。
本当はずっとこうして、甘えたかった。
もちろん、
そんな事を彼に言うつもりはないのだが。
実は彼女がいるし、
それ以外の女性の存在も否定しない。
でも、彼の側にいるのは自由だよな?
恋愛感情はいつか色褪せるが、
彼はそんな浮き足立った感情レベルでは
ない最強のところに存在している。
今回の件で、それがよく判った。
ずっと変わらずに側にいてくれる彼に、
これから少しずつでも俺だってこの関係を
大切にしているんだと伝えて行きたい。
偏食のある俺に、
彼は何を御馳走してくれるんだろう。
とりあえず新宿に着くまでは、
彼の隣で眠る事にしよう。
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