②川瀬side

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②川瀬side

「あいつ、一体どこに行っちまったんだ」 新宿・歌舞伎町、13時。 イライラする気持ちを言葉に込め、 路上に吐き捨てた。 何度彼の携帯に電話をかけても、 呼び出し音が鳴るだけで。 思いつく人間に片っ端から電話をしても、 彼に繋がる情報は掴む事ができなかった。 せっかくの1日オフが、 マネージャーの早朝からの電話で 台無しになった。 「岸野さんが行方不明です!」 という悲痛な叫びを聞いて、 いい年した大人がと笑ってしまった。 しかし半日経っても、見つからない。 最初は彼がよく目撃されるらしい、 代官山や恵比寿。 次に六本木、赤坂、麻布十番を バイクで回った。 オフィスが始まる時間になったら、 却って電車の移動は都合がいいと思い、 自宅に戻り、バイクを置いて銀座線で 渋谷へ向かった。 しばらく道玄坂あたりを探していたが、 人通りが多くなってきたので すぐ新宿へ移動し、歌舞伎町を徘徊して、 今に至る。 黒いジャケットにサングラス姿で、 街をうろうろする俺がよっぽど珍しいのか、 行く先々で携帯を掲げる人に出くわし、 その度に「岸野を見なかった?」と 訊いてみるが、皆曖昧に微笑むばかり。 そりゃそうだろうなあ・・・ あいつの行方を一番よく知ってる奴は、 コンビを組んでいる俺のはずだから。 世間のイメージと実際の状況が まるっきり違うことを、改めて実感する。 新宿駅の改札を抜け、 せわしなく行き来する人々を避けながら、 隅にある各路線の表示板を眺めていた。 ここから行ける場所で、 運転免許を持たない彼が行きそうな場所は? 新宿を更に北に行けば、池袋。 南にいけば、先程までいた渋谷、 恵比寿、目黒。 東なら御茶ノ水や東京。 少し乗る時間を長くすれば、 千葉県にも行けるみたいだが、 俺たちの今の立場からすれば、 そんなに長い距離をひとりで移動する ことはないだろう。 じゃあ、西は・・・中野、高円寺、 阿佐ヶ谷、荻窪、吉祥寺、三鷹・・・? 路線図を指差したまま、初めて捜索の 盲点があった事に気がついた。 新宿を抜けた、総武線の西側エリア。 彼が好んで棲家を選んでいた場所だった。 もしかしたらとある種の予感を抱き、 中央・総武線のホームを目指すことにした。 「こうなったら各駅に降りて、行きそうな 場所を隈なく探してやる」 ムダ足に終わるかも知れない確率も 残されている事は考えず、 電車を待ちながら腕時計を確認した。 13時20分。 昨日顔を合わせたはずの彼が どんな表情をしていたかは、 思い出せなかった。
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