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⑨岸野side
18時を過ぎて、
都心へ向かう人が少ないというのもあって、
車内の乗客はまばらだった。
彼が眠ったのを確認して、
僕はそっと彼に掴まれていた腕を解いた。
『お疲れ様です。川瀬が迎えに来ました。
今電車で帰宅中です。
明日からまたよろしくお願いします』
携帯を取り出し、
マネージャーに最後のLINEをしてから。
どういう過程で、彼が三鷹の禅林寺まで
迎えに来ることができたのか考え始めた。
(確か新宿から阿佐ヶ谷までは、
電車で来たって言ってたなあ。
それから、タクシーで三鷹まで。
あの運転手さんと妙に仲が良かったし、
2万円近くのタクシー代は
どこを走ったらそんなになるの?
って思ったけど、
僕の行きつけの喫茶店を探すために、
途中の荻窪とか吉祥寺にも寄ったのかな。
喫茶店で食事したんだろ?って訊いたって
ことは、僕が立ち寄ったあの喫茶店も?
ずっと追いかけて来てくれたのかな)
彼は僕が予想していた以上に、
僕を大切に思ってくれてる事が判った。
今回、リスクを冒してしまったと
後悔する瞬間もあったけど、
こんな事がなければきっと彼の気持ちを
知ることはできなかった。
怒り狂われる事も責められる事もなく、
こうして彼といつものように
一緒にいられるのがとても嬉しい。
(もうワガママ言わないから、
これからもずっと側にいてくれる?)
後からどんどん嬉しさが胸いっぱいに
込み上げてきて、
僕は口元の緩みを隠すことなく
そっと目を瞑った。
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