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輝く時
ロウソクの光だけに照らされた、薄明るい回廊を通り、広間へ着くと、すでにたくさんのロウソクが、祭壇に捧げられていたのです。
「わ、綺麗だね」
「は、はい…」
ステア様の腕につかまっている私は、ちょっとそれどころではないのです。
「ロウソクを」
「はい」
私とステア様はそれぞれ自分のロウソクを出し、中央の大きなロウソクから火をもらいました。
ロウソクを、それぞれ祭壇に備えると、光が一層、輝きを増したように感じたのです。
そっとステア様を見ると、ゆらめくロウソクの光のなかで、いつもと少し違うように見えました。
なんて幸せな日!こんな幸せな日! 今まで味わったことなどなかったのです!
私とステア様は学園を出て、灯夜祭にきらめく街を、そぞろ歩くことにしたのです。
「本当は、今日、来るかどうか、迷ってた」
ステア様が仰ったのです。
「僕はもうすぐ留学するし、1年間はろくに会えなくなるから」
そうだったのです。
もうすぐステア様は、行ってしまわれる。でも…
「でも、私は嬉しいです。こんな風にステア様と過ごすことができるなんて、夢みたいに幸せなのです。影の薄い私のことを、いろいろと気づいてくださって、感謝なのです」
「影が薄い? そんな風には感じないけど」
「いえ、そうなのです。だからクラスの方にも、名前どころが姿もあまり認識されていないのです。ゼブラス様もイアロフェン様も、私の名前を知りませんでしたし」
「ふうん。そうなのか。でも、私には…」
ステア様は、私から顔をそらすと、ちょっとうつむきがちになって言ったのです。
「ちゃんと君のこと見えていたし、名前も知ってたよ。ルビセル嬢」
わわーっ。名前を呼んでくださったのです!
「あ、あ、ありがとうございますっ。ス、ステア様は、私のこと、その…、いろいろと知っていてくださってて…、本当に感激なのです…。
あ、そういえば、ダンスパーティーの時は、お土産のお菓子をありがとうございました。
それから、教室で鞄を落としたときも、拾ってくださったり…。あと、図書室で、私に先に本を貸してくださったことも、あと、それから… 」
「君だって、僕のこと、よく見てたんじゃないか。そういうことなのかもね」
「そういうこと? 」
「そうだよ、きっと。君と僕は…、そうなんだよ」
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