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キャラメル作り①
なんだか変な感じなのです。
私の屋敷のキッチンに、エプロンをつけたヴィオレーヌ様とフロラス様がいらっしゃるなんて…。
「今日はよろしくね。ルビー」
「よろしくお願いします」
ふたりともメモとペンを用意して、やる気満々なのです。
「はい…、こちらこそです」
「材料はこれだけ? 牛乳と砂糖とバター」
「はい。基本はこれだけなのです。チョコや紅茶をいれたりすると、材料は増えますけど、まずは基本のキャラメルを作ったほうがいいと思いましたので」
キッチンスタッフのボルツが、鍋や調理器具を持ってきてくれました。
今日はボルツが手伝ってくれるので、心強いのです。
「先に、キャラメルを固めるための型を用意しておきます。キッチンペーパーを敷いておくのです」
「それから、3つの材料をぜんぶ鍋に入れて火にかけます。木ベラで常に混ぜ混ぜしてください」
「こうかしら…」
「そうです。ヴィオレーヌ様」
ヴィオレーヌ様はお料理の経験があまりないので、ボルツがついててくれて安心なのです。フロラス様は、さすがに手慣れた感じです。
「ちょっと固まってきた感じになったら、火から下ろして、ほんの少しだけ生地を氷水に落とします。落ちた生地が固まれば大丈夫です」
「あ、固まった」
「私もですわ」
「そしたら生地を型に流し込みます。冷蔵庫で1時間くらい冷やしてから、切り分けて包めば出来上がりなのです」
「まあ、本当に簡単なのね」
「これなら、すぐできそう」
おふたりとも嬉しそうなのです。
「生クリームやチョコレートもご用意してありますよ。生クリームを入れると、とってもミルキーなので、お嬢様方のお好みだと思いますよ」
ボルツが言うと、おふたりとも興味津々。さっそくボルツが教えるとおりに作り始めたのです。
何種類か作りおえると、冷えて固まるまで時間があるので、みんなで庭でお茶にすることにしました。
「固まるのが楽しみだわ」
「違う種類のも作れて嬉しい」
おふたりとも楽しそうで、本当に良かったのです。
そして、ボルツが用意してくれた美味しいスコーンやクッキーを、一緒に食べることができて嬉しいのです。
「ルビー? 何してるの? 」
そこへロズベル姉さまがやってきたのです。
あら、ご一緒におられるのは、確かジェデイド様ですよね。
「あ、私、ルビセル様と同じクラスのフロラス・ブロンサです。はじめまして」
さすがフロラス様。物怖じせずに挨拶されたのです。
「初めまして。ルビーの姉のロズベルです。まあ、ヴィオレーヌ様。いつも妹がお世話になっております」
「ロズベル様、こんにちは。私のほうこそ、ルビーにはお世話になっております。今日もルビーに、キャラメルの作り方を教わっていたのですわ」
「へえ、キャラメルだって」
「…ジェデイド様は、なぜここに? 」
ヴィオレーヌ様が尋ねられました。ジェデイド様は王家のご親戚ですから、ヴィオレーヌ様とも顔見知りなのですね。
「僕はロズベルと、勉強をしに来たんだよ。ヴィオレーヌ。君と会うのは久しぶりだね」
「先日の、学園でのパーティーでお見かけしましたわ」
「でも、話はしなかっただろう? 」
「ええ、そうですわね。ジェデイド様は大勢のダンスのお相手に囲まれて、お忙しそうでしたから」
あら、なんだかヴィオレーヌ様のご様子が変ですの。
「ところで、キャラメルを作ってたって? 君が噂のキャラメル嬢だね」
ジェデイド様は、私の手をとると軽く口に近づけて言ったのです。
「先日のキャラメルはとてもおいしかったよ。ぜひまた、頂きたいものだ」
まあぁ~っ、貴族の単なる挨拶とは知っていても、こんな素敵な方にされると、心臓がもたないのです。当然
ジェデイド様はそのあと、フロラス様にも同じようにご挨拶されていました。
「キャラメル嬢だなんて! ルビーに失礼ですわ。そんな変な呼び方はおやめください」
さすがヴィオレーヌ様、いつも私の言いたいことを言ってくださるのです。
「そうかな? 悪かったね。まあいつもヴィオレーヌは、僕のやり方が気に入らないらしいしね」
「…っ。そんなことは…」
やっぱりなんだか変なのです、ヴィオレーヌ様。
「まあまあ、ジェデイド、私たちは先に勉強をしましょうよ。頑張って疲れたところで、キャラメルをもらえるわよ。ね、ルビー」
「もう、お姉さまったら…」
さすが、ちゃっかりしてるのです。
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