中庭の木の下で

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中庭の木の下で

「私、そんなに無礼だったのでしょうか…」  注目を集め、テラスでの居心地が悪くなってしまったので、私はフロラス様を誘って学園の中庭にでて、木の下でお弁当を食べることにいたしました。 「この学園では、身分は関係ないって聞いてたのに…」  フロラス様は、がっかりされているご様子です。  まあ、表向きはそうですけど、実際は、そうもいかないこともあるでしょう…。  と思っていたら、ちょうどそこへ再び…。 「一応そういうことにはなっておりますけど、まったく関係ないとするには無理があるでしょう。    一歩、学園の外に出れば、それぞれの身分に戻りますし、学園内でも普段から、ある程度気を付けることが必要ではないでしょうか」  ヴィオレーヌ様がおられました!   そして私が思っていたことをズバッとおっしゃってくださいました。さすが~。 「そうなんでしょうか…。でしたら、学園内では自由という校風は、一体何なんでしょう」  あれ? フロラス様、今の聞いてた?  ヴィオレーヌ様はふうっとため息をつかれました。 「まあ確かに、学園の生徒でいるあいだだけでしか、出来ないこともありますわね」 「そうですよね」  ちょっとちょっとフロラス様、ヴィオレーヌ様は譲歩してくださったのですよ。 「ではあなたも、この学園にふさわしい気風を身につけられるべきではないでしょうか? フロラス嬢」 「はあ…」  わかったのか、わからないのか、気のない返事…。  ちょうどそこへ向こうから、王太子様たちがやってくるのが見えました。 「じゃあね、ルビー」 「あ、はい。ヴィオレーヌ様」  ヴィオレーヌ様は楚々と王太子様のところへ行かれたのです。  フロラス様は、はぁ、と大きくため息をつかれました。 「やっぱり自由なんて形だけなのかな…。私も、もう行くね。じゃあまた教室で」  そう言うと、食べ終わったお弁当をささっとしまって、その場を去っていかれました。  フロラス様はフロラス様で、お悩みになることがあるのでしょうね。  私もお弁当を食べ終わり、そのまま座ってぼんやりと木を見上げていました。  すると、どこからか微かにピアノの音らしきものが聞こえます。 「?」  よーく耳を澄ませていると、確かにこれはピアノの音です。誰かが音楽室で弾いているのですね。  私の知らない曲ですけれど、とってもお上手で、思わず聞き惚れてしまいます。  うっとり聞いていると、午後の授業のベルが鳴りました。大変、教室に戻らなくちゃ。
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