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こちらからのお誘い
はあぁぁぁ~…。
どうしましょう、おふたりからお誘いをうけてしまうなんて…。
でも、でも、私は、ステア様が…!
って思ってばっかりじゃなくて、私もちゃんと行動にうつさなくては!
とは言いつつも、なかなかステア様、おひとりにならないのですよね…。
はあ、とため息をつきつつ、いつもの場所でお昼を食べていると…
ピ、ピ、ピアノの音が!
私はお弁当をそこに放り出して、音楽室へ向かったのです。
ああ、どうか、どうか、ステア様でありますように!
音楽室の扉の前まで来て、私は立ちどまりました。
この向こうにステア様が…、いる?
まさか、またアドラス先生だったりしないのでしょうか…。
まあ、アドラス先生だったとしても、それはそれで構わないのです。
私は、深呼吸すると、音楽室の扉をノックしてから、開けたのです。
「し、失礼いたします…」
窓から差し込む光を受けて、ピアノの前に座っている人の姿が影になって、よく見えないのです。
けれど、眩しさのなかに見えたその人は、紛れもないステア様だったのです。
(ああ、やっぱり…)
「君は…」
「あ、あのっ、私、同じクラスの… 」
「ああ、知ってるよ。ルビセル・ラズリ嬢」
「ええっ」
「どうしてそんなに驚くの? 」
「だって、私、影が薄くて、人に名前を知っていただいてるなんてことはないので…」
「え? へえ、そうなんだ」
ステア様は、ちょっと面白そうにニコッと微笑まれました。
その笑顔が胸にズギュン!なのです!
いけない、こうしてる場合じゃないのです。
「ス、ステア様。これ、この本、お好きでしょうか? 」
私は、自分が好きな詩人の本を、差しだしました。
「ああ。この人。うん、けっこう好きだよ。前に図書室で、君に譲った本もそうだったよね」
なんと! 図書室でお会いしたことを、覚えていてくださったのです!
「は、はい。あの時のお礼に、これ、私が持っている本ですので、よろしかったら…」
「ああ、ありがとう。…でも、僕、もうすぐ留学するから、返せないかもしれない」
「いいのです! 返せなくても…。お気になさらず、どうぞ! 」
私はステア様に、押しつけるように本を渡したのです。
「そ、それでは、失礼いたします! 」
そして急いでお辞儀をすると音楽室を出て、逃げるように廊下を駆けていったのです。
それからというもの、灯夜祭が近づいてくるにつれて、街や学園では準備が着々と進み、雰囲気も盛り上がっていったのです。
いよいよ明日は灯祭、という日の学園からの帰り道
「ルビー」
声をかけられて振り向くと
「まあ、ヴィオレーヌ様にフロラス様」
「久しぶりね。灯夜祭の準備はどう? 」
「あ、はい…。その…、準備万端なのです! 」
「うわ、ほんと? じゃあステア様と約束できたんだ」
「いえ、違うのです。フロラス様。実は、お手紙を差し上げたのです。当日、音楽室の前でお待ちしていると」
そうなのです。
やはり面と向かってお誘いする自信がなく、お渡しした本に、お手紙を挟んでおいたのです。
「なんだ、そっかあ。来てくれるといいね」
「はい」
私は力強くうなづいたのです。
「ところで、フロラス様は? マリオス様をお誘いしたのですか? 」
「あ…、うん…。街の教会にね、待ち合わせて一緒に行くことになってる…」
「まあ、良かったですね」
「うん。これからいっぱい、マリオス様といろんなことを話そうと思う。ヴィオレーヌ様も待ち合わせですか? 」
「あ、いえ。私は、ジェデイドが屋敷まで迎えに来てくださることになってるの」
「わあ、いいな」
フロラス様がおっしゃると、ヴィオレーヌ様は嬉しそうに微笑まれました。
「みんな、それぞれに良かったわね。灯夜祭のあとも、嬉しい報告ができるといいわね」
「はい! 」
私とフロラス様は、ヴィオレーヌ様の言葉に一緒に頷いたのでした。
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