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幸せの理由
それからステア様が留学されるまで、私たちはできるだけ一緒に過ごしたのです。
学園でも、ステア様と一緒にいたりするので、私のことを認識してくださる人も増えてきたようなのです。
でも、そんなことはもう、どうでもよいと感じたのです。
私たちは、いろんな話をたくさんしました。
そしていよいよ、ステア様が留学される日が来たのです。
ゼブラス様やイアロフェン様、ヴィオレーヌ様にフロラス様、そしてもちろん私も、お見送りに集まったのです。
「休みには遊びに行くよ。ゼブラスとそう話してたんだ」
「ああ、待ってる」
「お前もたまには帰ってくるんだろ? 」
「もちろん。その時は連絡するよ」
「私たちもご一緒させていただきますわ。隣国には行ったことがないので」
「ですよね、ヴィオレーヌ様。もちろんルビーも一緒にです。ほら、ルビー」
フロラス様に押されて、私はステア様の前に出たのです。
「ひとりではちょっと心細いなとお話ししたら、このようなことになってしまったのです。申し訳ありません…」
「構わないよ。大勢のほうが楽しいし。それに… 」
ステア様はそっと私に顔を近づけると、小さな声で言いました。
「ルビーが来てくれるだけで、嬉しいから」
ひやーーーっ。
心拍数が一気に上がったのです。
「おい、俺たちがいること、忘れんなよ。な、イアロ」
「ああ。それに、お前がいないあいだに、ルビーの気が変わるかもしれないんだからな」
え?
「ステア、俺はまだ、ルビーを諦めてないぞ」
「私は、私のことを、もっと良くルビーに知ってもらうつもりだ」
え? え? そうなの??
ステア様は、ふう、とため息をつかれたのです。
「ふたりとも、諦めが悪いなあ。できるものならやってみなよ。ね、ルビー」
はっ。なんというお言葉…。
私の心拍数はさらに上がり、卒倒しそうになったところを、ヴィオレーヌ様とフロラス様に支えていただいたのです。
「ほらほら、いいかげんになさいませ。ステア様、道中お気をつけて」
「ありがとう。ヴィオレーヌ嬢。ルビーを頼んだよ。フロラス嬢も」
「まかせてください、ステア様」
こうしてステア様は、隣国へと行ってしまわれたのでした。
でも大丈夫。お手紙を書く約束をしましたし、お休みになれば会えるのですから。
「さ、ルビー、参りましょう」
「はい。ヴィオレーヌ様。お店はフロラス様が選んでくださったんですよね」
「そうよ。マリオス様に良いお店を教えてもらったの」
「なんだ、お前ら、どっか行くのか? 」
「ステア様が行ってしまったから、ルビーを元気づけるために、おいしいものを食べにいくことにしたのですわ」
「いいね。私たちもぜひ一緒に」
「男性方はご遠慮してください。ステア様からルビーのことを頼まれたばかりだし。さ、行きましょう」
フロラス様が、私とヴィオレーヌ様におっしゃったのです。
「あ、おい。待てよ」
「あら、おふたりとも、ついてくる気みたいですわ」
「ルビーったら、モテモテね。一体なにをしたのよ? 」
「え…、そうですね…。やはり、影が薄かったから、でしょうか… 」
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