キャラメル

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「ルビー、何をしているの? 」  夜、私が屋敷の厨房で、お菓子を作っていると、すぐ上の姉のロズベルがやってきました。 「お菓子を作っているの」 「こんな夜に? 明日も学校だっていうのに」  ロズベル姉さまも、アカンサス学園に通う3年生なのです。 「ええ。実は…お昼前の授業のときにお腹がすいちゃって、お腹が鳴りそうになっちゃうの」  ロズベル姉さまは、プッと吹き出しました。 「笑い事じゃないのよ。少し鳴ってしまったことがあって、とても恥ずかしかったんだから」 「気持ちはわかるわ。それで何作ってるの? 」 「シェフのボルツに相談したら、キャラメルはどうかって言ってくれたから、キャラメルにしたの。材料の種類も少なくてすむし」 「そうね。持ち運びもしやすいし、すぐ口に入れられるから、いいわね」 「でしょう? 今度はいろんな味のを作ってみようと思って」 「ルビーはすぐ凝るんだから」 「だって、楽しいもの」 「私にも頂戴」 「ええ? お姉さまも? 」 「私もお昼前にはお腹へっちゃうから。ジェデイドもよく、何か食べてるのよ」 「ジェデイト様も? 」  お姉さまのクラスメートに、王太子イアロフェン様の従兄、ジェデイド・シュナード様がいるのです。 「そうよ。ジェデイドにも分けてあげようっと」  そうだわ。私も、ヴィオレーヌ様に分けてあげよう。それから…。 「まあ、キャラメル? 」 「はい、どうぞ、ヴィオレーヌ様。ほかの方たちには内緒ですよ」 「ふふ、ありがとう。イアロ様にも差し上げてよろしいかしら? 」 「えっ」 「だめ? 」 「いえ、だめではありませんが…。イアロフェン様が、私のような素人が作ったお菓子を召し上がるでしょうか? 」 「イアロ様は、甘いものが好きなのよ。街へ行ったときなどに、お菓子屋さんで買ったものを食べたりしているの」 「僕が、なんだって? 」 「まあ、イアロ様」  ちょうどそこへイアロフェン様が通りかかったのです。わわっ、サラっとした美しい金髪に青い瞳、それに醸し出される素敵オーラ。おそばにいるだけで、身が引きしまるような想いがしてしまうのです。 「イアロ様。ちょうどいいところへ。ルビーがね…」 「あ、私…、し、失礼します」  私は急いでその場から離れました。あれ以上あそこにいたら、心臓が爆発しそうだったのです。  教室に戻って席に座り、ふーっとため息をつきました。  さあ、次の授業の用意をしましょう。 と、思ったところに、ぐ~~…、と何やら小さな低い音が…。これは…。  私はつい、ちらりとお隣の席の、ゼブラス様の顔をのぞいてしまいました。ゼブラス様も私の視線に気づき、なんだよ、といった感じで、私のほうをちらっとご覧になりました。    さっと顔をそむけたものの、またあの低い音が…。やっぱりゼブラス様も…。  私はがさごそと、キャラメルをひとつ取り出しました。 「あの…、よろしければ、これを…」 「? 」  キャラメルを受け取ったゼブラス様は、ぽかんとされました。 「これ…?」    ゼブラス様が何かおっしゃろうとした時に、ちょうど先生が入ってらっしゃって授業が始まりました。  ようやく授業が終わり、お昼休みです。  急がなければ、と私はお弁当を持って、教室を飛び出しました。 「あ、おい…」  ゼブラス様が、何かおっしゃていたような…?  でもきっと私に対してではありませんね。  そのあと、私がいなくなった教室で、またまたちょっとした出来事があったのです。 「あの、ステア様」  フロラス様が、ステア様に話しかけられたので、教室が一瞬、ざわっとざわめきました。 「先ほどの問題で、わからないことがあったのですが、教えてもらえますか? 」  フロラス様とステア様は席がお隣なので、このようなこともあるでしょう。  フロラス様は学園内に特にお知り合いもいらっしゃらないようですし。 「ああ。どれ? 」 「これです」 「おい、昼食、食べに行こうぜ」  ゼブラス様とイアロフェン様が、ステア様を誘いにやってきました。 「ああ、ちょっと待ってくれ」  ステア様が仰ると、ゼブラス様がおふたりのノートを覗きこみました。 「ああ、この問題な。俺もわからなかったよ」 「どれどれ? 」  とイアロフェン様も。  こうして結局、お三方とフロラス様で、あーだこーだと問題に向き合っておられたようです。 「ああ、わかりました! そうなんですね、ありがとうございます! 」 「いや。わかって良かった」 「…私、まだこの学園で、友達とかいなくて。やっぱり貴族の方たちが多いので、どうしても…。でも、ステア様が隣の席で、本当に助かってます。ありがとうございます」  それを聞いて、イアロフェン様は優しく微笑んでこう言われたのです。 「私たちで良ければ、何でも聞いてくれ」  教室でそんなことが起きているとは露知らず、私は用事をすませると、いつもの木の下でお弁当を食べていました。  食べ終わってしばらくぼーっとしていると、また微かにピアノの音が聞こえてきました。  今日は違う曲のようですね。その日の気分なのでしょうか。  私はそのピアノを聞きながら、ふふっと思わず微笑んでしまったのです。
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