歓迎パーティで

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歓迎パーティで

 さて、新入生入学から、すでに1か月ほどが過ぎていました。このあたりで新入生歓迎を兼ねたパーティーが開かれます。  学園では節目節目に何度かパーティーが開かれますが、貴族の方も庶出の方も、差別なく参加できます。  ダンスやパーティーマナーについては授業で教わりますし、ドレスがない方には貸出もあります。  けれどやはり庶出だったりパーティーが苦手だったりすると、欠席される方もいらっしゃるようです。  私も、あまりそういった場は得意ではないので、欠席したいのですが…。 「ルビーは出席するのでしょう? 」 「は、はあ…」  ヴォオレーヌ様がにこにこしながら言われるので、断りにくいのです…。それにロズベル姉さまも 「少しはああいう場に慣れないと! お嫁に行けなくなるわよ」  なんて仰るものですから…、仕方ありませんね。おまけに 「ドレスはこれがいいよわね。髪飾りは私のを貸してあげる」  なんて、自分のこと以上に張りきってらっしゃって、困ったものです…。 ところでフロレス様はご出席されるのかしら? とちょっと気になったりしました。  さて、学園でのパーティーですので、昼間の明るいうちに行われます。    正式な夜会のように夜になってしまうと、生徒が帰ったりするのに危ないですからね。  私はロズベル姉さまと一緒に、屋敷から馬車で学園のホールへ向かいました。    ホールには、すでに沢山の人が集まってきています。そして、おいしそうなお料理も並んでいます。    そろそろパーティーの始まる時間です。  決まったパートナーがいらっしゃる方は、殿方にエスコートされてやってきています。  ヴィオレーヌ様もイアロフェン様と一緒にいらっしゃいました。お美しいおふたりに、会場中がため息の嵐です。ステア様やゼブラス様はおひとりでお越しのようです。  パーティーが始まり、音楽が流れだして、皆さまが踊り始めました。ヴィオレーヌ様はイアロフェン様と踊ってらっしゃいます。おふたりが踊る姿は本当に美しく、それだけでもうお腹いっぱいなのです。  私は、さっそく美味しいお料理のほうへと向かいました。うーん、なんて素敵なんでしょう。オードブルからデザートまで揃っているのです。  お料理をつまみながらホールに目をやると、あら、ロズベルお姉さまだわ。一緒に踊っているのは…どなたかしら。  背が高く少し長めの金髪に整った顔立ちで、思わず人目を惹くキラキラオーラ…。もしかしてあの方がジェデイド様かしら。  なんて、食べながらもしっかり会場を観察していると、あ、あのピアノを弾いてらっしゃるのは、アドラス先生ではないですか! まあ、ここでもアドラス先生のピアノを聞けるなんて…。  曲が1曲終わり、次の曲が始まりました。  踊っていた方々は、お互いに礼をして離れます。ゼブラス様にはご令嬢たちが、次のお相手にと殺到しています。ステア様には少し、皆さん近寄りがたいご様子で、遠巻きに取り囲まれています。イアロフェン様には…なんと…。  フロラス様が、次のダンスのお相手になっていました!    チェルシー様はじめヴィオレーヌ様の“お友達”が、ひそひそ話をしています。 「あの方、私たちが注意してあげたのに、わかってないようね」 「普段から教室でも、イアロフェン様たちに馴れ馴れしくしているようよ」  そこへ再びヴィオレーヌ様が 「パーティでは、パートナー以外と踊ってはいけない、というきまりはないわ」 「ヴィオレーヌ様…」 「それは、そうですけど…」  ヴィオレーヌ様はにっこり笑って続けられました。 「皆さま、私のためを想って言ってくださるのよね。私は大丈夫。そんなつまらないことを言うことに、あなたたちの時間を使うことはないわよ」  はあ~、素晴らしいです。さすがヴィオレーヌ様。 「ルビー 」  あら、ロズベル姉さまの声が聞こえます。でも私はちょうどカーテンの影で、ミニケーキをたくさんお皿に乗せて味わっていたところだったのです。 「変ねえ。さっきこのあたりにいたのに」  一体、何のご用でしょう。 「お姉さま? 」  ケーキの皿を持ったまま、カーテンから顔をのぞかせると、ロズベル姉さまの隣に先ほど一緒に踊っておられたジェデイド様がいらっしゃったのです。 「そんなところにいたの? ほら、ジェデイドがあなたと踊りたいって」  私はごくんと口のなかのケーキを飲み込みました。  このキラキラオーラの方が、私と? 聞き間違いではないのでしょうか。 「…お姉さま、私、今、ケーキを…」  と言ったところで、別のご令嬢たちがやってきたのです。 「ジェデイド様、次は私と」 「いえ、私と」  我先にとジェデイド様のところに集まってまいりました。ジェデイド様も人気があるのですね。集まってきたご令嬢たちに紛れて、私はこっそり下がっていったのです。  たくさん食べたので、なにか飲み物を取りにいくと、アドラス先生がいらっしゃいました。 「まあ、アドラス先生。ごきげんよう」 「ん? ああ、君か」 「先生、ピアノは? 」 「交代してもらったよ」  そうですね。ずっと弾きつづけるのは疲れますものね。 「先生、甘いものはお好きでしたでしょうか? 私、勝手に置いていってしまいましたけど」 「甘いもの? 」 「はい。私、キャラメルを作りましたので、いつもピアノを聞かせていただいているお礼に、ピアノの上に置いておいたのですが?」 「変だな。私は見ていないが」 「え? 何日か前のお昼休みのはじめに、置いたのですけど…」 「最近、私は昼休みにピアノは弾いておらんねえ。ピアノの上に置いてあったというのも見ていないがね」 「そうなのですか? では一体どなたが…」  キャラメルをピアノに置いたあと、確かにピアノの音が聞こえてきたはずですよね…。  そういえばアドラス先生は、ほかの生徒もピアノを弾きに来てるって言ってましたよね。では、その方が…? 「先生、お昼休みにピアノを弾きにきてる方というのは…」  ふり向いて先生にお尋ねしたところ、すでにもうそこに先生はいらっしゃいませんでした。あら、どこへ行かれたのかしら。  でも、きっとその方が、キャラメルを持っていってしまったのです! もしかしたらいつもお昼休みに私が聞いているピアノは、先生ではなく…。ああ~、一体どなたなのでしょう。
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