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「え? べ、別にそんなつもりは……」
普段は凛とした三杉さんがうろたえる様は、酔いも手伝ってなんだか無性に愛らしく思えた。
「いいんですいいんですって。三杉さん、いつも二次会で見ないなって思ってたら、この手があったんですね。そうですよねー。僕も実は、どうせならこのまま逃げちゃおうかなって考えてたところなんです。面倒ですもんね、あんな酔っ払いどもの相手」
三杉さんは呆気に取られたようにキョトンとした後、急にクスクスと吹き出した。
「ぼ、僕、なんか変な事言いました?」
「ううん、違うの。森田君って、そんな事言う人じゃないと思ってたから」
「それはお互い様ですよ。三杉さんだって、忘れものしたなんて嘘ついてまで二次会ばっくれるような人じゃないと思ってたし」
お互い共犯という負い目があるせいか、急に三杉さんに対して親近感が湧いた。僕は酔った勢いに任せて、いつもなら絶対言えないようなセリフを口にしていた。
「あの……良かったらこの後、二人で飲み直しません? 僕あの人達と二次会は嫌だけど、三杉さんとだったらもうちょっと飲みたい気分かも」
三杉さんは一瞬逡巡したように見えたけれど、すぐさま笑顔を取り戻した。
「……よし、じゃあ行っちゃおうかな。私も、このまま一人で帰るのは気が進まなかったし」
何気なく飛び出した言葉の意味を図りかねて、ドクンと心臓がはねる。じゃあ僕をお持ち帰りしてくれるんですね、なんて口元まで出そうになった下世話な台詞を危うく飲み込んだ。
「じゃ、じゃあ行きましょうか。実は僕、近くに良い店を知ってるんですよ」
美杉さんが翻意する前に、善は急げとばかり靴を履こうとするものの、右と左を間違えて転びそうになる。それを見て、三杉さんがまたくすくすと笑ってくれた。
僕なんかには手の届かない存在だと思っていた三杉さんとの間に思わぬチャンスが到来して、僕ははやる心を抑える事ができなかった。
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