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「この店、雰囲気だけじゃなくてカクテルも絶品なんですよ。正直言うと僕、居酒屋のインチキじゃない本物のカクテルってここで初めて知りました。三杉さんはバーとか、結構行ったりします?」
「全然。そもそも誰かと飲みに行く機会も少ないし……でも、そうなのね。せっかくだから試してみようかしら。おすすめは……」
チラリと三杉さんが投げる視線に、マスターがすぐさま反応する。
「見たところもう既にだいぶお飲みになられているようですので、カクテルでしたらショートよりはロングをおすすめします。甘め、さっぱりめなど、味のご希望はございますか? 気になるボトルがあれば、そちらからお作りする事もできますよ」
「でしたら……あんまり甘くない、落ち着いた感じのカクテルをお願いします」
「かしこまりました」
言い終えると同時に、マスターの手が背後の棚に伸びた。落ちついた感じなどという抽象的なオーダーにも関わらず、色とりどりの無数のボトルの中から迷う事なく二本のリキュールを抜き出す。氷を入れたグラスが並び、最後に登場するのが銀色に光るシェイカーだ。
メジャーカップを介して淀みなく液体が注がれ、くるくるとバースプーンが踊る。氷が投入されると、いよいよ見どころのシーンだ。
マスターが振るシェイカーの中で、氷が弾けるシャカシャカという小気味よい音が店内に響き渡る。それすらもがまるで一種のBGMのようで、心地良い。
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