道化師達の夜

「……素敵ね」
「でしょう？」
　隣でうっとりと目を細める三杉さんに、僕はまるで自分が褒められているような気分になった。
　シェイカーからグラスに注がれたのは柿渋色に濁ったあまり食欲をそそらない液体だったにも関わらず、炭酸が注がれ、レモンスライスが差し込まれると、一瞬にして透き通った琥珀色に輝く魅惑的なカクテルに様変わりした。まるで魔法を見ているようで、思わず息を飲まずにはいられなかった。
「紅茶とフランボワーズのリキュールをジンジャエールで割った、ダージリンクーラーです。お口に合えばよろしいのですが。……お連れ様はいつものバーボンでよろしいですか」
　連れの女性に先にサービスしてから、僕にもちゃんと常連として敬意を払ってくれる。しかもバーボンなんてかっこつけた言い方をしたけれど、マスターが取り出したのは安物のオールドクロウだ。
　こちらから何も言わずとも状況を察して、色々と気を払ってくれるあたりは流石にプロだな、と感嘆する事しきりだ。
「じゃあ、改めて」
「乾杯」
　カチリ、と控え目にグラスを合わせて微笑み合う。それだけで、二人でイケナイ事をしているような背徳感がこみ上げて来る。今頃はみんな何も知らずに二次会の真っただ中かと思うと、尚更だった。