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道化師達の夜
店を出た瞬間、十二月の冷たい風に晒されて思わず目を細めた。酔いで火照った身体から熱が奪われていく感覚が心地良い。
「おい、森田ぁっ! 早く来いよ!」
「はぁい、今行きますっ!」
酒が入ると途端に口汚くなる入江先輩に呼ばれ、辟易しながらも僕は慌てて背中を追いかけた。
「二次会どこだ森田ぁっ!」
「ええと確か、その先を曲がって……」
スマホを探してポケットをまさぐり、僕はあっと声を上げて立ち止まった。
ない!
全身のポケットというポケットを探しても、どこにもスマホが見当たらない! という事は……。
「すんません俺、さっきの店にスマホ忘れたっぽいっス! 先行ってて下さいっ! 『庄内の風』って店ですから」
「オーケー湘南なっ! 江の島のほうな! 森田お前、ンな事言ってばっくれんじゃねーぞっ! すぐ来いよっ、絶対なっ!」
がなり立てる入江先輩を、少し前を歩いていた同僚達が囲み、両側から抱えるようにして連行していく。
その中に珍しく、いつもは一次会で帰ってしまう松井課長を見つけ、あの人が一緒なら大丈夫だろうと一安心する。
「すみません、お願いしまーすっ!」
僕はみんなの背中に声を掛け、すぐさま今来た道を取って返した。
てんでばらばらなクリスマスソングが酔っぱらったサラリーマン達の頭上を飛び交い、ネオンとイルミネーションが入り乱れる街は、一年のうちで一番けばけばしく見えた。
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