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「――その、直葬の場合だと、火葬の前日にこちらで宿泊することは可能ですか?」
「いえ……。申し訳ございませんが、こちらでお泊りできるのは、あくまで通夜を執り行われた日の晩のみ、なんです」
それじゃあ、だめだ。私はどうしても最期の夜を、母といっしょに過ごしたかった。それこそが私の、葬儀をあげるうえでの絶対条件だ。そのためには、どうやら一日葬と直葬は度外視する他ないらしい。
通夜をあげたうえで、ある程度まとまったお金を、手元に――
私はしばらく見積と料金表を見比べた末に、苦肉の策で、思いきった提案を彼女に投げかけた。
「あの。……もし、可能であれば、なんですが――」
その提案には、それまで涼やかな態度を崩さなかった彼女も、少々面食らったようであった。
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