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「――お寺様を呼ばずに、お通夜をやることって、できませんか?」
「え? それは……通夜式のあいだ、読経を上げてもらわないということですか?」
「はい……。だって、そうじゃないと宿泊できないんですよね?」
「それは、そうなんですが……」
音喜多さんは眉尻を下げて、伏し目がちに微笑む。
「……だめ、ですか? お坊さんにお経を読んでもらわないと成仏できないとか、そういうことなんでしょうか?」
「……いえ。特定の宗教を持たない方々は、自由葬という形で導師を招かずにお式をされることもありますので」
だったら――と、前のめりになる私を、彼女がすかさず制して言う。
「高槻様。たしかに、自由葬という形態の葬儀を望まれる方は、一般にも多くいらっしゃいます。自由葬とは言葉のとおり、お式の時間内であれば何をするのも自由、という独創性の高いお式です。
――しかし、それは裏を返せば『明確にやりたいことがなければ、そもそも式として成立しない』ということでもあります。
両日、お式にあてられる一時間。短いようで意外と長いですよ? 目的もなく、ただ費用を抑えたいがために自由葬を希望されたのでは、高槻様は葬儀の二日間、ただ無為に時間を過ごされるだけになってしまいかねません。その点について、高槻様にはなにかお考えがありますか?」
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