【一】その報せは、死

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【一】その報せは、死

 私の母は――  どうやらすでに死んでいる、らしい――  らしい――といっても、憶測で滅多なことを言っているわけではない。  たったいま掛かってきた電話の相手が、私にそう告げたのだ。  終電間近の駅のホーム。  私はいつものように、スマホを片手に電車の到着を待っていた。どこかの誰かが配信している、たいして興味も無い動画をぼんやりと眺めながら。  横並びに立つサラリーマン達も、まるで判で押したように、私とおなじ(たたず)まい。  この場にいる人々は、誰も彼もが疲労の色も隠さずに手元の機械に視線を落としていた。だらしなく体幹をぐらつかせながら不規則にゆらゆらと揺れているその様は、さながら刈り取られるのを待つ雑草たちが白線に沿って不揃いに生えているようでもあった。  ふと、画面上に見慣れない電話番号が表示されていることに気付く。  それから一拍遅れて、振動が手に伝わる。  ――こんな時間に? 誰だろう?  戸惑っているあいだに一度は着信が途絶えた。  しかし、  いまのは、何だったんだろう――と思ったのも束の間、すぐさま同じ番号からまた着信があった。  誰かは知らないが、よほど急を要する事態であることは何となく察した。  この場で応答するべきか逡巡する。なんとなく嫌な予感がした。しかしここで無視したところで、おそらく断続的に何度でも掛かってくるに違いない。  遅かれ早かれ電話に出なければいけないのなら、せめて夜道を歩きながらは避けたかった。  意を決して「通話」をタップ。おそるおそるスマホを耳に当てる。  すると意外なことに、電話口に立った相手は、自分が「刑事」だと身分を明かした。びっくりした。警察署からの電話だったのだ。
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