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「分かんない。でもなんか、こないだの鑑定が原因みたい」
「あの魔弾の鑑定が?」
「うん。何でも、学園の許可なく勝手に鑑定して、結果を騎士団に渡したからだって。学園が所有する研究機器の不正使用だって。」
「何それ…」
フィオナは思わず立ち上がり、リゼルに歩み寄る。
「そんなのおかしいよ。リゼルちゃんのお陰で、崩落の原因究明が大幅に進展したのに…!」
「だよね?ジーゲル先生もめっちゃ反論してくれたんだけど、逆に『共犯で訓戒処分だ』とか言われちゃって。ゾマーのやつ、何言ったって同じことの繰り返しなんだもん。埒が明かないよ」
「ゾマーって、魔法薬学のゾマー教授?」
「うん、そう。出世して今年から生徒指導担当になっちゃったの。もー最悪…」
げんなりと肩を落とすリゼル。
「そもそもあいつ、一体どっから情報を嗅ぎつけたんだろ?私もジーゲル先生も誰にも言ってないのに…」
ゾマー教授はフィオナたちの学年主任でもあったが、生徒からの評判はあまり良くなかった。
小太りで、じっとりと睨み付けるようなしかめっ面が特徴の、中年の男性教師。生徒たちに対しては高圧的な態度だったが、学園長など自分より目上の人間の前では、いつもへこへことご機嫌取りをしていた。
そんな彼が、生徒たちの間では密かに『ゴマすりゾマー』の二つ名で通っていることを、本人が知っているかどうかは定かではない。
「でもリゼルちゃん、何にも悪いことしてないのに、謹慎処分なんて納得できない。そうだ、ハインツ先生に言って抗議してもらえば…」
フィオナの言葉に、しかしリゼルは力なく首を振って。
「…ううん。いいよ、もう。私のせいで、ジーゲル先生まで処分されちゃったし」
「リゼルちゃんのせいなんかじゃ…!」
「それに…『これ以上口答えするなら、学園から王立研究所への推薦は出せない』って言われちゃってさ。悔しいけど、もう無駄な抵抗はしない方がいいのかなって…」
今度こそフィオナは、呆れて言葉を失った。そんな脅しのようなことをしてまで、リゼルを謹慎させる意味がどこにあるというのか。
(なんだか…リゼルちゃんを崩落事件から遠ざけたがってるみたい)
リゼルの鑑定が無ければ、あの崩落は自然災害による事故として処理されていただろう。ひょっとしてゾマーは、これ以上あの事件の真相が暴かれないようにするために――?
しかし、魔法学園の教員であるゾマーと、崩落事件がどう関係しているのだろう。
ここでリゼルは気を取り直したように、いつもの笑顔に戻って。
「で、どうせなら家でだらだらしてるより、フィオちゃんの護衛についた方が有意義かなと思って。私の自慢の武器たちにかかれば、クラウスなんか木っ端微塵だよ!」
「だめだめ!木っ端微塵にしちゃだめ!」
ライフルを構えてみせるリゼルを慌てて止めるフィオナ。
すると、そんな2人の間をするりと抜け、ウォルナットがテーブルにひょいと飛び乗る。
ウォルナットはリゼルの横に並ぶと、狩りの構えをしながら勇ましく鳴いてみせた。
「あはは。ウォルもフィオちゃんのこと守りたいの?」
リゼルが楽しそうに笑いながら、ウォルナットの顎を撫でる。
フィオナもくすりと笑みを零し、キッチンに向かった。
「お茶淹れるね。リゼルちゃんも今日はゆっくりしていって」
「…うん。ありがと、フィオちゃん」
頷いてから、思う存分ウォルナットと戯れる、リゼルであった。
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