12.事件

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「分かんない。でもなんか、こないだの鑑定が原因みたい」 「あの魔弾の鑑定が?」 「うん。何でも、学園の許可なく勝手に鑑定して、結果を騎士団に渡したからだって。学園が所有する研究機器の不正使用だって。」 「何それ…」 フィオナは思わず立ち上がり、リゼルに歩み寄る。 「そんなのおかしいよ。リゼルちゃんのお陰で、崩落の原因究明が大幅に進展したのに…!」 「だよね?ジーゲル先生もめっちゃ反論してくれたんだけど、逆に『共犯で訓戒処分だ』とか言われちゃって。ゾマーのやつ、何言ったって同じことの繰り返しなんだもん。埒が明かないよ」 「ゾマーって、魔法薬学のゾマー教授?」 「うん、そう。出世して今年から生徒指導担当になっちゃったの。もー最悪…」 げんなりと肩を落とすリゼル。 「そもそもあいつ、一体どっから情報を嗅ぎつけたんだろ?私もジーゲル先生も誰にも言ってないのに…」 ゾマー教授はフィオナたちの学年主任でもあったが、生徒からの評判はあまり良くなかった。 小太りで、じっとりと睨み付けるようなしかめっ面が特徴の、中年の男性教師。生徒たちに対しては高圧的な態度だったが、学園長など自分より目上の人間の前では、いつもへこへことご機嫌取りをしていた。 そんな彼が、生徒たちの間では密かに『ゴマすりゾマー』の二つ名で通っていることを、本人が知っているかどうかは定かではない。 「でもリゼルちゃん、何にも悪いことしてないのに、謹慎処分なんて納得できない。そうだ、ハインツ先生に言って抗議してもらえば…」 フィオナの言葉に、しかしリゼルは力なく首を振って。 「…ううん。いいよ、もう。私のせいで、ジーゲル先生まで処分されちゃったし」 「リゼルちゃんのせいなんかじゃ…!」 「それに…『これ以上口答えするなら、学園から王立研究所への推薦は出せない』って言われちゃってさ。悔しいけど、もう無駄な抵抗はしない方がいいのかなって…」 今度こそフィオナは、呆れて言葉を失った。そんな脅しのようなことをしてまで、リゼルを謹慎させる意味がどこにあるというのか。 (なんだか…リゼルちゃんを崩落事件から遠ざけたがってるみたい) リゼルの鑑定が無ければ、あの崩落は自然災害による事故として処理されていただろう。ひょっとしてゾマーは、これ以上あの事件の真相が暴かれないようにするために――? しかし、魔法学園の教員であるゾマーと、崩落事件がどう関係しているのだろう。 ここでリゼルは気を取り直したように、いつもの笑顔に戻って。 「で、どうせなら家でだらだらしてるより、フィオちゃんの護衛についた方が有意義かなと思って。私の自慢の武器たちにかかれば、クラウスなんか木っ端微塵だよ!」 「だめだめ!木っ端微塵にしちゃだめ!」 ライフルを構えてみせるリゼルを慌てて止めるフィオナ。 すると、そんな2人の間をするりと抜け、ウォルナットがテーブルにひょいと飛び乗る。 ウォルナットはリゼルの横に並ぶと、狩りの構えをしながら勇ましく鳴いてみせた。 「あはは。ウォルもフィオちゃんのこと守りたいの?」 リゼルが楽しそうに笑いながら、ウォルナットの顎を撫でる。 フィオナもくすりと笑みを零し、キッチンに向かった。 「お茶淹れるね。リゼルちゃんも今日はゆっくりしていって」 「…うん。ありがと、フィオちゃん」 頷いてから、思う存分ウォルナットと戯れる、リゼルであった。
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