100人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひょっとしてレイモンド嬢は、誰かに謀られたのかも知れないな。それも、王宮を動かせるほどの力を持つ人間に」
「そんな、どうしてサリア様が…」
エリオスが言うように、誰かがサリアを犯人に仕立て上げようとしているのなら、フィオナが証言したところで握り潰されてしまうだろう。ぎゅっと拳を握り締めたフィオナだったが――ふと、あることを思い出して、2階の自室に駆け込む。
階段を下りて再びリビングに戻ってきたフィオナの手には、小さな試薬瓶が握られていた。
「エリオス様、これ…昨日、サリア様が殿下の身体から取り出した、毒薬です」
この試薬瓶は、リゼルが魔弾の火薬入れとして使っているものだ。昨日、サリアから毒の入ったカップを受け取ったフィオナは、リゼルに空の試薬瓶をひとつ分けてもらい、こっそり毒薬を保管していた。
「この毒薬に、“水映”をかけられないでしょうか?」
「このままでは難しいだろうが…騎士団にある精製機にかければ、可能かもしれない」
エリオスは毒入りの試薬瓶を、胸ポケットに入れると。
「今から行って、処理を頼んでくるよ」
「えっ…でも、エリオス様はお仕事でお疲れなのに…」
心配そうなフィオナの頭に、エリオスはぽんと手を置いて。
「これをおいてすぐに帰って来るから、大丈夫だよ。フィオナは、孤児院で子供たちが待ってるだろ?」
エリオスが優しく微笑み、フィオナもこくりと頷いた。昨日も休んでしまったのだから、今日はきちんと講義をしてあげなければ。
「…フィオナ。昨日の、レイモンド嬢の解毒の件。それとこの毒薬の存在は絶対に、他の誰にも言わないでくれ。何かあったら、すぐに俺を呼ぶこと。いいな?」
「分かりました」
こうして2人は、それぞれに出掛けて行ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!