100人が本棚に入れています
本棚に追加
サリアはフィオナと並び、学園で最も優秀な生徒の一人だった。父親であるレイモンド伯爵が教育熱心だったそうで、幼少のころから英才教育を受けて育ったらしい。
そんなサリアだが、唯一、魔法学だけは苦手としているようだった。“苦手”と言っても、生徒たちの平均点に比べれば相当優秀な成績だったが。
しかし最後の最後で、サリアは魔法学においても、フィオナを超える成績を残してみせたという。
(ああサリア様、1位になってくれてありがとう…本当にありがとう!)
壇上のサリアに向け、声なき声で何度も謝意を伝えるフィオナであったが。
「…フィオナ。君との婚約解消について、また私とサリアの婚約について、何か異議はあるか?」
クラウスが問う。声は朗々と響いたが、その翡翠色の瞳はどこか不安げだ。
そんなクラウスを見て、ハッと我に返るフィオナ。小さく咳払いをし、フィオナはひとつ、息を吐いてから。
壇上の二人に向け、心から祝福のカーテシーを披露する。
それは、錚々たる名家が揃った来賓席からも、感嘆の溜め息が漏れ聞こえてくるほど、見事な所作であった。
「クラウス殿下、サリア様。この度のご婚約、誠におめでとうございます」
フィオナの立ち回りは、クラウスと婚約してからの2年間で習得した、正妃教育の賜物だ。
そんなフィオナだったが、ふと、力を抜いた笑顔を浮かべた。
「…正直申し上げて、ほっといたしました。庶子出身の私は国政に疎いですが、サリア様であれば、クラウス殿下と共にこの国を正しく導いてくださるはずです」
この2年間、正妃の器となるべく懸命に勉強してきたフィオナ。しかし、学べば学ぶほど自信を無くしていたのも事実。自分は本当に正妃にふさわしいのかと、自問自答の日々だった。
そもそもフィオナがこの学園に入った理由は、偏に魔法の勉強をしたかったから。上流階級、まして王族としての身分など、全く興味がなかった。
何よりも魔法が好きなフィオナは、卒業したら魔法の先生か研究者になれればいいな、くらいにのほほんと考えていたものである。
最初のコメントを投稿しよう!