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「ありがとう、フィオナ…!」
フィオナの返答に、クラウスも端正な顔を緩ませる。会場内の雰囲気がほっと和みかけた、次の瞬間。
「フィオナ、実は君に、是非とも紹介したい男がいるんだ」
「えっ?」
正妃候補という重圧から解放され、すっかり浮かれていたフィオナであったが、クラウスからの予期せぬ言葉に慌てて顔を上げる。
クラウスが右手を上げると、傍らに、一人の精悍な青年が歩み寄った。
「私が最も信頼する部下、シリスだ。…フィオナ、君には彼と結婚して、私たちと共にこの国を支えてほしい」
「…はっ…?」
い、今、なんて?けっ…こん…?
突拍子もない提案に、フィオナの思考は再び、停止してしまった。会場からも再びざわめきが起きる。
「最後の試験ではサリアに首位を譲ったとはいえ、君が優秀な魔法使いであることに変わりはない。シリスは私の右腕として働いてくれていて、君が不安に思っている国政分野の知識も、補ってくれるだろう」
「い、いえ、私はもう、政治には…」
そう言いかけたフィオナは、クラウスの目を見て口を噤む。
フィオナを真っ直ぐ射すくめるような、強い瞳。
――あの時と同じだ。2年前に婚約を申し込まれた時も、このクラウスの視線に身体を絡めとられたかのように、フィオナは何も言えなくなってしまった。
「…決まりだな」
フィオナの沈黙を肯定と受け取ったのか、クラウスが満足げに頷き――
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