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玄関から来客を知らせるチャイムが鳴った。
「はあい」
インターホン越しに母が愛想良く何か話している。
「はいはい、今行きますね」
「誰なの? 母さん」
「美哉、お前もおいで。お隣に引っ越して来た人だって」
玄関のドアを開けると、三十代くらいの夫婦と小さな男の子が立っていた。
「今日隣に越してきた安積です。よろしくお願いします」
「まあまあご丁寧に。こちらこそよろしくお願いしますね。この子は娘の美哉、高校一年生です」
紹介されたので頭を下げ、挨拶をする。
「安積さんのお子さんはおいくつなの? 可愛いわねぇ。お名前は?」
「あづみれんです。ろくさいです」
「まあお利口さんだこと」
Tシャツに短パン、クリクリした目がやんちゃそうな子だ。その子が私を見て顔を輝かせ、指を差して叫んだ。
「ママ! このお姉ちゃん、おはるちゃんに似てる! おはるちゃんってほんとにいたんだ!」
頬を紅潮させ興奮して話す少年を安積ママはこらこら、と制した。
「すみません、この子、夢でよく見る女の子のことをおはるちゃんと呼んでいまして……蓮くん、お姉ちゃんは、おはるちゃんじゃないのよ。夢と一緒くたにしちゃダメ」
「えー、でもー……」
尚も食い下がる少年を、安積パパが抱きかかえた。話を終わらせようとしているみたい。
「すみません、お邪魔しました。明日からよろしくお願いします」
そう言って安積家は帰っていった。
これが私と安積蓮の出会い。この時私は十六歳だった。
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