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「遅くなってかえって良かったな」
そう言って微笑みながら、桐人がバッグから緑色の紙袋を出した。
「さっきの?」
「そう。どうしようかと思ったけど、やっぱりラッピングしてもらったんだ」
紙袋から出された2つの煉瓦色の小さな箱。黄色いリボンと焦げ茶のリボン。
「こっちの黄色が知希の。…俺が開けてもいい?」
それって…と思いながら、うん、と頷いた。
胸がドキドキする。ドキドキしながら桐人の手元を見てる。
大きな手が、するりとリボンをほどいた。一辺が繋がってる箱をカパっと開けて、中の指輪を取り出す。
「知希。左手、出して」
とくとく、とくとくと心臓が鳴っている。
うん、て頷きながら、唇を噛んで桐人を見た。
う…わ…
カッコいい…
真っ直ぐオレを見る桐人の、切れ長の少し照れたような目。
差し出したオレの左手の人差し指に、桐人がゆっくりと指輪を嵌めてくれる。
なんか夢を見てるみたいで、現実感があんまりない。
息が苦しいほど鼓動が跳ねている。
「うん。やっぱ似合うな」
桐人がオレの手を取ったまま満足そうに言った。
「あの、オレも桐人に…」
指輪、着けてあげたい
「マジで?嬉しいな」
微笑む桐人を見ながら、焦げ茶のリボンの箱に手を伸ばした。
桐人の手に添えた自分の左手に指輪が嵌ってるのを見ながら、一回り大きいお揃いの指輪を桐人の指に嵌めていく。
ペアリング…
やばい、泣きそう…
桐人の手を握ったまま、鼻をずずっと啜った。
「知希?」
「へへ…。うれし…。ありがとね、桐人…」
鼻を啜りながら、ようやくそう言って正面の桐人を見た。
桐人がオレの目元を指で拭った。
「かっわいいなぁ、お前。マジで」
堪んない、ほんと、と呟きながら桐人が片手で器用にリボンを畳み、指輪の箱の中に片付けていく。そして黄色いリボンを入れた小箱をオレの方に寄せた。
「なぁ知希。食事終わったら、うち来ない?」
桐人がオレの手を撫でながら言う。
お互いの指に光るペアリング。
「うちの親、今日も遅いって言ってたから。な?」
オレの目を覗き込むように言う桐人を見つめ返して、うん、と頷くと桐人は嬉しそうに笑った。
「あ、あれたぶん俺らのだ」
「え、マジで?」
慌てて手を離して、指輪の箱をバッグに仕舞っているとランチのセットが運ばれてきた。
途端に腹がぐうって鳴ってしまった。桐人がははって笑う。
「知希はマジで可愛らしさで俺を殺しにくるよな」
「ちょっ…桐人、なに恥ずいこと言ってんの…っ」
そう言って桐人を睨んでみたけど、それも「可愛いなぁ」って言われてしまった。
ミニケーキの付いたパスタセットはすごく美味しかったけど、2人ともちょっと急ぎ気味で食べた。
だって、早く2人っきりになりたくて。
「冬休み中ずっと、俺ん家に閉じ込めておきたい」
速足で帰って来て、桐人は玄関ドアを閉めた途端にオレを抱きしめて囁いた。
「…夏休みにも言ってた、ね」
「だな」
くすっと笑って、桐人がオレの頬に口付けた。
「たぶん春休みも言うよ」
そう呟く唇が、オレの唇に触れている。
「好きだよ、知希」
キスの合間に桐人が囁く。オレは桐人にしがみついて、うん、うんて頷いて応える。
「…ね、桐人…。はやく…」
桐人の部屋、行きたい
ぎゅうって抱きついたオレを桐人が見下ろした。
急いで靴を脱ぎながら、またキスをする。
頭が、背骨が溶けそうなほど口付けられて、膝の力が抜けそうになったところで、ぐいっと抱き上げられた。
桐人の首に腕を回して、力いっぱい抱きついてその耳元に唇を寄せる。
ドキドキ、ドキドキ胸が鳴って、息も苦しいけど伝えたい。
「…オレも…桐人大好き…」
「知希…」
思わず、という感じで声をもらした桐人にぎゅうぎゅう抱きしめられて苦しい。
「そのプレゼントも最高」
そう呟いた桐人が、部屋のドアを開ける。
桐人に抱きついているオレの、左手の人差し指で指輪がキラリと光った。
了
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