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「クリスマスに隣街のあのデカいツリー、見に行かねぇ?」
12月の初めの頃に、桐人がそんなことを言った。
「うん!行く行くー!」
オレはもちろん二つ返事で了承した。行くに決まってる。
クリスマスデートだ!
隣街の駅前は商業ビルの建ち並ぶ賑やかな通りがあって、毎年立派なクリスマスツリーが飾られる。
小学生の頃、オレと桐人はオレの母親と桐人の父親も含めて4人でそのツリーを見に行った。あの時はぼんやりと「たぶん、もうすぐ4人家族になるんだろうなあ」って思っていた。
そこに、今年は桐人と2人で行くんだ。
楽しみで楽しみで、いつもならバタバタしてあっという間に過ぎていくはずの12月が、なんか長かった。
土日に桐人がお父さんの会社のイベントの手伝いに行っちゃって、2週連続で会えなかったのも長かった理由だと思う。1週目は事前準備の手伝い、2週目はイベントの裏方、だったらしい。
で、それを乗り越えて、やっとクリスマスがやってきた。
桐人に会えない休日に、桐人へのクリスマスプレゼントを買いに行った。
時間だけはいっぱいあったから、モールの中をうろうろ歩き回って、悩んで悩んでメガネケースにした。
黒いレザーのメガネケース。喜んでくれるかな?
緑色の包装紙に赤いリボンの、いかにも『クリスマス』というプレゼントを、バッグの1番上に入れてドキドキしながら家を出た。
待ち合わせは駅の西口。電車を使う時はいつもここ。
で、たいてい桐人が先に来てる。
今日もー。
「知希!おはよ」
桐人がオレに手を振って、こっちに歩いて来る。
「おはよー、桐人。って、あれ?なんか…ちょっと…」
いつもよりカッコよくね?
髪とか服とか、いつもよりオシャレだ。
「どした?知希」
「え…っと、オレ、普通のカッコで来てごめんな?」
そういえばクリスマスだった。
「何言ってんだよ。めちゃくちゃ可愛いじゃん」
ははっと笑って桐人が言う。
「わ!桐人、ちょっとっっ」
人に聞かれるっ
焦って見上げたオレに、桐人が「平気平気」と笑いながら手を伸ばしてくる。
そして肩をぐっと抱かれた。
「みんなクリスマスで浮かれてっから大丈夫だよ」
オレを覗き込んで言う桐人の、メガネの奥の目がすごく優しい。
「…うんっ」
えへへって笑いかけながら、桐人の背中に回した手でコートをぎゅっと握った。
電車は割と混んでいて、オレは桐人のコートに掴まって立っていた。
近くの女の子のグループが桐人を見て目配せしてて、ついコートを掴んでる手に力が入った。
桐人がオレを見下ろす気配を感じた。ガタンと電車が揺れて、桐人がオレを抱きしめるみたいに支えてくれる。
ちらっと見えた女の子たちは「きゃー」みたいな顔をしてた。
オレは彼女たちから視線を外しながら、桐人の胸に頬を寄せた。
桐人はオレのだから
絶対誰にもあげないよ
そう思いながら、桐人のコートを握り直した。
桐人の大きな手が、さらりとオレの頭を撫でた。
電車を降りて、クリスマスツリーのある駅前広場へ向かう。
クリスマスは街中がキラキラしてる。
「わぁ、キレー!やっぱデカいな、ここのツリー」
ね、ね、と桐人の袖を引いて言うと、桐人はうん、うんと頷きながらなんか可笑しそうに笑っていた。
「お前さ、子どもの時とおんなじ反応してる」
可愛いなぁって言いながら、くすくす笑う桐人がオレの頭を撫でた。
「そうだった?オレ全然覚えてないや」
覚えてるのは、ここに来たってことだけ。
「あの時も可愛いなぁって思ってたよ。今とは違う感情だったけど」
そう言った桐人がツリーを見上げた。
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