箒星の手触り、

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もうクリスマスになるのかと、朝露に濡れた窓を開けた。  想像より冷淡な空気は、私に鳥肌をつける。    私は微笑んだ。  見るだけで広がっていく世界。寂寞でも、寂寥でもない。      幼い頃の情景が、冬になってようやく沁みる。  夏のように、浮立つ心を隠すように鳴く蝉時雨は、聞こえない。  冬特有の、しんまりとした、別れしか生まない空気がただ苦い。    願わくば、この沈む部屋が、いつかの憧憬になってほしい。  生まれたばかりの星は、光る背中を追った。  初めての夜が、私にとって致命傷だった。  朝がいつまでも続くと思っていたのに。  暗い世界に、閉じこめられただけで、明るい光を求めた。でも、    春も秋も冬も夏も、心がないように、過ぎ去っていく。    春を願っている人もいて、冬が終わってほしいと願っている人もいる。  星が落ちそうなベンチには、夏空に洩れた花火が麗しく、ときめきを遺しながら、反射した。  夢が始まった時間を憶えていないように、私はいつから恋をしているのか、分からなくなってしまった。  朝も昼も夜も、過ぎて、バトンタッチしていく。  夕日が眩しいのは、朝日が煌めいているのは、死ぬことを少なからず考えているから。  こんな弱くて、頼りなくて、意気地なしの私に、空の友情をまんべんなく見せてくれるのは、嬉しい。  訪れない未来など、溜め息と混ざった愚痴みたいなものだ。  いつの間にか失われている、この気持ちは、今どうにかしてほしいんじゃなくて、抱きしめて離したくないだけ。  潮風が啾々と笑う駅のホーム。  私は、泣いてしまった。ノスタルジックな目の前に繰り広げられた景色が、不甲斐ない私を、無差別に、照らしてくれたからかもしれない。  「ありがとう」と言う感謝が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた天の川に、  私達は、ここだよと、光って消えた。
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