想いがあふれて恋しくて

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 ―慎一さん、怒っているだろうか。  生徒会での会議が延びて、ずいぶんと遅くなってしまった。携帯電話の時計を見れば時刻は約束の二十時を軽く越えていて、もうすぐ二十一時になってしまう。  のんびりと歩いていられない。気が急いて足を速める。佐良東吾(さがら とうご)は生徒会室を出て学生寮へ帰宅を急ぐ。  寮の門限は二十二時だ。慎一を自宅へ送って戻ってギリギリだ。ゆっくりと話もできないかもしれない。  つねづね思っているけれど、慎一と別れて明日会えるまでの時間は気が遠くなるほど長く感じる。だから慎一と二人きりになれる就寝前のこの時間は大切だ。一番大事にしたいと思っているのに。けれど今日も遅くなってしまった。  ―もうちょっと、もう少しで慎一さんに会える。急いで帰らないと。  早く会ってあの声を聞きたい。話がしたい。怒られて、罵倒されても。どこかいつも声に優しい思いがにじんでいる。姿を見て言葉を交わして、できれば手を握りたい。自分よりもずっと細くて繊細な指だ。細いのは指だけじゃなくて、腕も首も腰もそうで。何度もぎゅっと抱きしめたくなる。  ああ、早く顔が見たい。  表情が豊かな慎一の顔が好きだ。笑うと春の昼下がりの太陽に照らされて咲き乱れる花のように可愛くて、怒ると冬の雲一つない夜に輝く三日月のように綺麗だ。  もちろん好きなところは顔だけとは言わない。全部と答えれば月並みだし、順番にあげていけばきりがない。  ―あの人のことは、誰に言わなくても自分だけがわかっていればいい。  さらに足を急がせる。学生寮が見えてきた。まだどの部屋の窓を見ても灯りがついていている。就寝前のこの時間帯は、ひと際活気づいている。にぎやかな学生寮だ。  その中に自分の部屋もある。そこで慎一が待っている。  帰って、ドアを開けて、名前を呼んで。  振り向いたらすぐに謝罪しよう。  怒っていても、必ずこちらを見てくれる。  それだけで、とても。満足なのだ。
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