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「そういえば、シロ先輩。お気に入りのスイーツ店には寄らなくていいんですか? 数量限定販売に行くって言ってませんでした?」
確か、行きがけにそんな話をしていたはずだ。シロ先輩はちらりとこちらを見た後、ブスッとした顔で前を向いた。
「ああ、プレゼンが終わったら直帰して行こうと思っていたんだが……まぁ、諦めるしかないな」
「あー、それじゃ私が代わりに買ってきてあげますよ! 先輩は会議に出てください」
シロ先輩のお気に入りの店には何度か付き合って行ったことがある。たぶん、私一人でも行けるはずだ。そう思って提案すると、シロ先輩は不機嫌そうな顔でジロリと睨んできた。
「クロ、お前……」
「はい?」
「自分だけ仕事サボろうとしてるだろ?」
(……バレたか)
「えっと……そ、それは……」
言葉に詰まる私を尻目に、シロ先輩は大きなため息をつく。
「……ったく。クロは、ほんと会議嫌いだよな」
そう言って呆れたようにふっと笑うと、車のシートに身体を深く沈め、早く車を出せとばかりに手をひらひらと振った。
(先輩だって、大概だと思うんだけどなぁ……)
シロ先輩は会議に出席しても発言することはほとんどない。興味が無さそうな顔をして、ただぼーっと資料を読んでいるだけ。それがポーズだということは、毎日一緒にいればなんとなくわかる。
だから、会議に間に合うように戻るとシロ先輩が言ったときは驚いた。だけどもしかしたら、参加しなければならないとシロ先輩が思うほど、今日の会議は重要な話でもあるのだろうか。
この人は意外と周りをよく見ている。だから、シロ先輩は上司受けが良いのかもしれないと、ぼんやり思いながら私は車を発進させた。
***
「お疲れ様です! お先に失礼します!」
定時より少し早めに仕事を切り上げ、私は勢いよく席を立った。シロ先輩は相変わらずやる気のない様子で、片手を上げて「おう」と応えただけだった。
シロ先輩は会議が終わってからも、他の社員と一緒に残業をするようだ。どうやら限定スイーツはもう諦めているらしい。
「シロ先輩、残業ですか?」
「ああ、キリのいいところまではやって帰るつもりだ……」
シロ先輩は、私に手伝わせたいときははっきりとそう言う。今は手伝いを必要としていないのだろう。
「そうですか。じゃあ、私はお先に」
再び声をかけ、荷物を手に取った。間もなく定時ということもあり、気の抜けた声を其処此処に聞きながら、オフィスを出てトイレへと向かう。
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