6:蜜蜂の恋は薔薇色

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「母ちゃん、ありがとう!」 「これでやっとうちの蜜蜂が元気になる。やれやれだ」 「長い間、心配かけてごめんね」 「まったくだよ。ま、結婚は遅れたが最良の相手が見つかったんだ。良しとしなきゃね」 「うん!」  アレンは母とハグをした。すると母が小声で「アレン、幸せにおなり」と囁く。その声音はいつもの力強い鉄の女王蜂ではなく、優しさに満ちていて、アレンは思わず涙ぐんでしまった。 「母ちゃん……! 俺、幸せになるね」  母の隣にいる燕尾服を着た父は、式が始まる前からずっとハンカチを片手に号泣している。 「アレン~! 辛くなったらすぐに帰ってくるんだよ」 「父ちゃん! 大丈夫だよ。トラヴィスもお城のみんなも、すごく良くしてくれるから」  父にハグをすると、母が呆れて「甘やかすんじゃないよ! まったく!」と憎まれ口を叩き、三人で笑い合った。  バルコニーの扉が開けられ、心地良い風が吹き込んでくる。  これからアレンとトラヴィスは蜜蜂の妖精に伝わる伝統行事『結婚飛行』を行う。無事に終えられれば、サンデル村の蜜蜂に元気が戻る。  赤いマントを羽織ったトラヴィスが「アレン、参ろう」と手を差し出した。アレンは右手で彼の手を握り返し、両親やジョセフ、そしてトラヴィスの両親に向かって元気良く「行ってきます!」と言って左手を振った。  左の手首には大切な金色のバングルがある。バングルの内側には魔力を失ったルビーの代わりに、トラヴィスがガーネットという名の赤い魔石をつけてくれた。愛が永遠に続くおまじないがかけられているらしい。  バルコニーへ出て背中の羽を羽ばたかせ、ゆっくりと宙へ浮かぶ。トラヴィスは右手にサファイアの魔石を掲げ、床を蹴って空へ舞い上がった。  広場に集まった妖精が二人を見上げ「あっ、お出ましになられた!」と声を上げる。上空から見下ろすと「バラ王様、アレン様、おめでとうございまーす!」と歓声が上がった。大勢の妖精に祝福してもらえてありがたいなと思い、アレンは感謝の気持ちを込めて手を振った。  二人で手を繋いで城の中庭の上を飛行する。赤バラが咲き乱れる中庭にはテーブルがいくつも並べられ、賓客の妖精達がスイーツを食べて楽しそうに歓談していた。賑やかな音楽も流れている。妖精達は二人に気づき、こちらに向かって笑顔で手を振った。 「アレーン! 結婚飛行、がんばってねー!」  大きな声を発しているのはケリーだ。 「はーい! 行ってきまーす!」
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