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夕暮れの彼方から全力坂 1
「こりゃあ一体何事でしょ!おいフランケン、お前何かしたか?」
「……ふがぁ」
鬼の手引きに在ったお嬢様を探すべく、常世の霊堂を突き進んでいたミイラ男とフランケンシュタインだったが、真っ暗闇だった視界が一転、アダムとイブが住んでいたとされる楽園にも似た、美しい別世界が眼前に広がっていた。
「旦那様から聞いていた常世の霊堂っちゅうのとは、少し——いいや、かなり違う風な世界になってしまっただな。漆黒の闇が地獄の冥府にまで続く、なんておどろおどろしい話だったが、いやぁこの景色はどうだべ。もともと霊界は配色がドギツイけど、此処のカラフルさはなんて荘厳なんだべ、なぁフランケン」
「ふが」
先程まで歩んでいた真っ暗闇の道程が、一瞬のうちに変わってしまったのだから、ミイラ男とフランケンシュタインが驚くのも無理はない。
「それともなんだ、今度はオラ達が見えざる魔人の手引きに在ったんか?いいやそれはねえ筈だ。
魔人の手引きはいつも一人だけを誘うと聞く。お嬢様が既に引かれているのに、今更オラ達が、しかも同時に引かれる訳はねえ。
だから信じがたいけど、此処は変わらず常世の霊堂で、何かが在ってこの霊堂の景色だけが一変したと考えるのが妥当だ。うん、そうに違えねえ」
独り言ちで自分を納得させると、ミイラ男の目も次に向く。
「んだら、オラ達は引き続きお嬢様を探すだけだべ。なに、却って視界が開けて、探し物には好都合だ。おいフランケン!気合さ入れてお嬢様を探すだよ!」
「ふがぁ!」
意気込むまでは良かったが、そこからが大変であった。山野を降り、三途の川をえっちらおっちら。燃え立つ焦熱の火山に体力を削られ、抜けたと思えば荒漠の砂漠地帯。また、砂漠地帯には突如として足元が爆発する機雷のようなものまであり、いかに無限の命を持つ霊体といえども、動いていないが心臓に悪い。
「こりゃ骨が折れるでがんすよ」
漏れ出る吐息も心細く、たまに出て来る言葉も弱弱しい。だが進む足を止める事はない。
魔人の手引きに連れ攫われたお嬢様を連れ戻す為に、ミイラ男とフランケンシュタインの行軍は止まらない。
さて、時間という概念をこの世界にも適用し得るならば、五日と半日を刻んだ頃。ミイラ男とフランケンシュタインの眼前には、ポツンと孤独に存在している違和感の塊のような喫茶店が在った。
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