0人が本棚に入れています
本棚に追加
ホワホワホワホワ来ても助けてくれない 2
「えらい事になっただ、お嬢様、お嬢様!いたら返事して下せぇ。急に脅かしっこは無しですよぉ」
場面変わり、此方はミイラ男とフランケンシュタイン。ふと目を逸らしたのも束の間、見えざる魔人の手引きによってお嬢様を見失ってしまった二人は大いに慌てた。
辺りを見渡しても、それらしい形式一つ残らず、もはや別の場所に空間ごとテレポートさせられたとでも言うのが適当な状況に、彼らは急転直下放り出されたのである。
「いや困った。困ったでがすよ。おいフランケン!何か見つけたか」
グルグル巻きの包帯上からでも解る焦りも隠さず、吐く唾構わず話しかけるミイラ男だが、
「……ふがぁ」
話しかける相手のフランケンシュタインがこれでは、どうにも緊張感に欠ける。
「お嬢様から目を離すなと、あれ程旦那様から口を酸っぱくして言われていただに、オラぁやっぱり間抜けだ。見えざる魔人の手引きをこうも軽々に許しちまうとは」
見えざる魔人の手引き。ここ『見えざる魔人の洞窟』では連れから目を離してはいけない。
地底深くに住まうと噂される焦熱地獄の鬼たちが、入り口付近に訪れる若き霊体を欲しがり一瞬の間隙を突いて地獄に誘う、という世にも恐ろしき噂が囁かれていた。
ドラキュラ伯爵もその事実を知っていたからミイラ男とフランケンシュタインの二人を従者として随行させたのだが、鬼の手引きは彼らの目を盗み、瞬く間にお嬢様を地獄に引いてしまった。
「嘆いてばかりもいられねぇ、お嬢様を連れ戻さにゃあ、オラ達も帰る事は出来ねえ。ここは一つ、やけっぱちも神頼みで、あの噂を信じて進むしかねえだ。無事に待っていて下せえよ、お嬢様」
だが、鬼の手引きには続きがある。鬼の手引きに連れられた者は鬼の品定めを受けるかのように『常闇の霊道』と呼ばれる場所へ一度誘われるのである。
この霊堂はミイラ男達のいる地上付近から鬼住まう焦熱地獄の謂わば中間であり、全ての善を跳ね除ける地獄の理に迎合する為、誘われた者の精神を攪乱させ善悪無しの純粋な狂気へと、純なる霊体を堕天させる為に存在しているのである。
そのため『常闇の霊堂』に堕ちた者はまだ救う事が出来るのである。タイムリミットがあるとすれば、鬼の手引きに在った者——現状ではお嬢様が、鬼の攪乱に触れてしまうまで。
「さぁ行くでがんすよ」
「ふがぁ!」
最初のコメントを投稿しよう!