殺人犯の忘れもの

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 床に横たわっていたのは、妻のバーバラだった。呼びかけても返事はない。大きく開いた目が、力なく天井を向いている。  帰宅してみたら、この状態だった。  頸動脈(けいどうみゃく)に指を当てた。肌はまだ温かいが、脈はない。死んでいる。  場所は、リビングの隅。そばには、懐古(かいこ)趣味のレコードプレーヤーをのせた机がある。机のかどに、血がこびりついているのを見つけた。  バーバラの首を持ちあげる。頭のうしろの金髪に、血がついている。後頭部を机のかどにぶつけて死んだらしい。  あらためて、妻を見おろす。  (とし)に似合わない、派手なワンピースを着た死体だった。  足をすべらせて後ろに倒れた、というのは考えにくい。だれかに突き飛ばされ、頭を打って死んだ、と考えるのが妥当だ。  おれが帰ってきたとき、家の前には、妻の車以外に、車はなかった。犯人はもう逃走したのだろう。 (やれやれ、面倒が増えてしまった)  そう思って、ため息をついたときだ。  もの音がした。となりの食堂から聞こえた。  おれは愛用の拳銃、グロック19を構えて、食堂へ向かった。
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