殺人犯の忘れもの

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 テーブルの陰に、誰かがひそんでいた。 「おい、出ろ。さもないと撃つぞ」  脅したとたん、そいつは陰から飛びだし、反対側の出入り口へ向かった。男だった。 「ちっ」  ここいらは近くに家はないが、実際に撃つと、あとが面倒だ。  おれは男を追った。すぐに追いついた。腰にタックルする。倒れた男をさんざんに殴り、蹴った。  拳銃を顔に突きつける。 「なめるなよ、小僧」  すごんで見せた。  実際そいつは、二十歳そこそこの小僧だった。細身の身体で、髪は栗色、甘ったれの坊ちゃん顔ときている。いかにもバーバラが好きそうなタイプだ。  今夜、妻は街でこいつをナンパし、自分の車でお持ち帰りしてきたのだろう。まったく、何度やっても()りない女だ。 「う……撃たないで」  おびえる男のほほに、グロックの銃口をめりこませる。  男がひっと悲鳴をあげ、言いわけを始めた。 「殺すつもりじゃ、なかったんだ。近くでよく見たら、意外に(とし)をくってたから、その、ちょっと突いたら……」 「ふうん、突きとばしたら、倒れて、机のかどに頭をぶつけて、死んだ、と?」  男は必死になって首をたてにふる。 「それにしたって、忘れものを置いて逃げようなんて、許せねえ話だ。え? そうだろ?」 「……忘れもの?」 「ああ、忘れものだ。お前が殺した女の死体だよ。当然、お前が持って帰ってくれるんだろう? な、色男さんよ?」  おれは、恐怖にゆがんだ男の顔に自分の顔を近づけ、唇の端を思いきり上げて、笑って見せたのだった。
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