殺人犯の忘れもの

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◇◇◇  外へ出た。  満月の光がふりそそぐ、うるわしい晩だった。  月光の下を、若い男が歩く。両手を肩より高くかかげ、妻の車へと向かう。  数歩おくれて、おれが続く。手には拳銃をかまえ、肩にはバーバラの死体を(かつ)いでいる。元レスラーのおれにとって、小柄な妻を(かつ)ぐなど、なんでもないことだ。  男が車のかたわらに立った。ホンダの赤いアコードの、助手席側だった 「そっちじゃない」  おれは運転席側を拳銃で指し示す。  男が前方をまわって、運転席へ向かう間に、おれは後ろのトランクのふたを開けた。  トランクのなかには、ダニーの死体が横たわっていた。さっき、おれの車で運んできて、アコードへ移し替えたものだ。死体の始末を、バーバラにも手伝わせるつもりだった。  ダニーはバーバラの浮気相手だ。関係がこじれたので、なんとかしてほしい、と妻に泣きつかれ、今夜始末したのだった。  バーバラに()れた弱みもあるが、おれの昔の殺人のことを知られているから、頼みを断れないのだ。  おれはバーバラの死体をダニーのそれの横に並べ、トランクのふたを閉めた。もちろん、あの男に、死体がふたつある、などと教えるつもりはない。  運転席のほうへ行く。男に拳銃を突きつける。 「さあ、どこへでも行け」
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