第二章 手紙

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『なんでもないよ』とわたしはそう答えたけれど、やっぱり黒コーデの女性が視界に入るとゾクゾクした。それに何となく嫌な感じもした。 そうだ、黒コーデの女性なんて見なければいいのだ。お母さんとの会話に集中しよう。ただ、あの黒コーデの女性がわたし達の会話を盗み聞きしないかなと、それもまた気になる。 「お待たせしました~」 いつの間にか厨房に戻っていたさやさんが料理をお盆に載せわたし達のテーブルの前に立っていた。 「まあ、美味しそうね」 お母さんが目の前に置かれたナポリタンパスタとコーンポタージュに目を輝かせる。 「わっ、美味しそう」 わたしも自分の目の前に置かれたカレーライスとコーンポタージュに目を落とし瞳をキラキラと輝かせた。 さやさんの料理は食べる前から美味しいなと、わかるそんな感じだ。 「うふふ、さや特製の料理はきっと、美味しいと思いますよ」 さやさんはわたしとお母さんを交互に見て言った。自分の料理の腕に自信があるさやさんがちょっと羨ましかった。 「では、ごゆっくりお召し上がりくださいね。わたしは、あちらのお客さんの料理も作らなくては」 さやさんは、横目でチラリと黒コーデの女性を見ている。そして、わたしに視線を戻すとその目は、『あの女性また来ましたね』と言っているように見えた。 わたしも『なんだか不気味です』と言葉に出さず目で伝えた。
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