第二章 手紙

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部屋にお母さんと一緒に戻る。なんだか不思議な気持ちになった。子供の頃は一緒に家に帰ることなんて当たり前だったのに。 わたしも大人になったんだなとこれまた当たり前のことを考える。 「今日はお母さんが夕飯を作るね」 お母さんは、自宅から持ってきたなんだか懐かしいピンク地に真っ赤な薔薇が描かれたエプロンをつけた。 「わ~い、ありがとう嬉しいな」 今日はお父さんが出張とのことでこのさや荘にお母さんは泊まる。先程二人でスーパーに買い物に行った。それもとても懐かしくて胸が熱くなる。 お母さんが持つ買い物かごにわたしは、こっそりお菓子を入れた。 「ちょっと、未央ちゃん。これは何かしら?」 お母さんは、わたしが入れたコアラの絵が描かれているチョコ菓子を手に持ち笑った。 「えへへ、お菓子だよ」 「それは見ればわかるわよ。買ってほしいのね」 お母さんは可笑しそうにクスクス笑った。 「あはは、バレたか」 わたしはお母さんに買ってもらったチョコ菓子を大切なものでもあるかのように握りしめた。 なんて言いながら現在そのチョコ菓子をパクパク食べていた。 「未央ちゃん、夕飯前にお菓子を食べるとごはんが食べられなくなるわよ」 お玉を片手に持ったお母さんがキッチンから出てきて言った。 「えへへ」とわたしは笑って誤魔化した。 確か子供の頃よくこの台詞を聞いたなと思い出し目を細めた。
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